東方妖遊記小説

□八
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「そんな理由で――! 呪詛をかけたのは人間ですよ! その人間を捕まえて罰するべきじゃないんですか!」
「誰を裁くのかは余が決めることだ。お前が決めることではない」



それまでなんとか晄は穏便に陽甲へ話を持ち掛けるが意に介さないような態度で返される。
怒りで立ち上がった晄を近衛たちは矛を持って牽制し、
舜と莉由は弟の行為を袖を引っ張ることで留めさせた。
悔しくて、晄の目からは涙が込み上げている。
涙を袖で拭う姿が春陽は不憫に思えてならなかった。



『我に構うな。殺すがいい……』



人の声ではない、横たわっている化蛇へ目を向けてみれば、彼はその黄金色の目を薄く開いていた。
どこかやる切れない思いが伝わってくる言葉である。



「さあ、やるのだ、化蛇が弱っているうちに――。
 また暴れ始めたら今度こそ取り返しがつかぬことになるぞ」
「俺は、」



春陽や周囲の目が一斉に晄へ向かった。



「殺さない! 何て言われたって殺さない! 俺にしか炎招戈は使えないんだから、
 俺が殺さないって決めたら、誰も化蛇を殺せやしないんだから!」
「こやつ――」
「お待ちください! この少年の非礼は私が代わってお詫び申し上げます」



震える陽甲に一歩前へ出たのは楓牙だ。
けれど、と彼は鋭い眼差しで陽甲を見上げる。



「呪詛を用いた者が悪いという晄の言い分にも一理ございます。
 今回、化蛇は水害をもたらしてしまいましたが、日照りの時には化蛇の力が必要でございましょう。
 何卒御助命を」
「う、うむ……」
「そういえば一昨年の干ばつでは、いくら水神に祈っても雨が降りませんでしたね」
「だ、だが……この妖を放っておいて本当に大丈夫なのか……?」



しまいには微苦笑を浮かばせ口添えする利條に、陽甲は不安な面持ちで化蛇を一瞥する。



「俺が化蛇の面倒を見ます!」



その場にいる誰もが度肝を抜かされたような顔で晄を見た。
突然の言い出しに春陽も目を瞬かせる。
晄は周囲の反応を気にすることもなく、一切の迷いもなくそう言い切った。



「そんなに心配なら俺が化蛇をずっと見張ってます。万が一、また変な奴が化蛇に呪詛をかけて
 化蛇が暴れ出したら、俺が止めます。それで納得してください!」



こんな大きいのうちじゃ飼えないわよ……。
多少動揺する莉由の呟きがいやに現実味の帯びたものに聞こえた。

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