斬バラ!小説

□裾を掴む子供のように
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男衆の口から出た“新撰組”に、以蔵の名前を呼ぶのはどうしても憚れた。
ここへやって来たのは、もしかしたらそういう理由があったのかもしれない。

けれど、街の出入りに差しかかっても目的の少女には結局出会えなかった。



「気のせい、だった……?」



これ以上探しても、見つからないような気がした椿は仕方なく戻ることを決める。
逆にいないならいないでいいのかもしれない。
戻ろうと、踵を返す椿に衝撃が襲ってきたのはその時だった。



「っ! ごめんなさい」
「あぁ?」



以蔵の影を追い掛けてきたばかりで周りが見えていなかった。
椿にぶつかってきたのは、刀を携えた一人の男だった。
男は一瞬、不機嫌な面持ちで椿を見下ろしたが、すぐさま下卑た笑みを浮かばせる。
それを間近で見てしまった椿はやや表情を歪めた。



「せっかくええ気分やったってのにあいつら……。
 ちょうどええ……ちょい付き合えや譲ちゃん。まだ飲み足らんとこやったんや」



男はひどく酔っていた。
腕を取られ、引き寄せられた椿は漂ってくる濃い酒臭に眉間に皺を寄せる。



「なんやその顔は、あぁ? 早よう来いっ!」
「(この男――)」



椿の表情が気に食わなかったのか、目付きを鋭くさせる男。

どうせ店で暴れでもして追い出されたのだろう。
もしかしたら先ほどの騒ぎはこの男が原因だったのかもしれないと考えると、
椿にとってもただの酔っ払いではなくなった。



「(祇園でのわきまえない振る舞いは嫌い)」



しつこく腕を引っ張る男へ、椿が睨み付けるように見上げようとした、まさにその時。



「その手を放してもらおうか」



探していた少女が、いつの間にかこちらへ近付いて来ていることに、驚いて目を丸くした。






お題提供 h a z y様

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