東方妖遊記小説

□八
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急速に落ちていく巨体が河に叩き付けられる前に、晄と化蛇を助けたのは河から飛び出した
小化蛇たちだった。



「晄ちゃん!」



小化蛇は自分たちの背に化蛇の腹を乗せるとゆっくりと羽ばたいていき、
そのまま晄と化蛇を堤の上へ降ろすと何事もなく河の中へ姿を消した。
途端に駆け出す舜と莉由。
それまで呆然と見守っていた春陽は弾かれたように後に続いた。



「まったく、なんて無茶をするの……。寿命が百年ぐらい縮まったわ……」



先に晄へ抱き付いたのは姉である莉由であった。
出迎えてくれた姉の温もりに、晄はやっと肩に入れていた力を抜く。



「ごめん、心配かけちゃったね。舜兄も……これありがとう。助かった。
 もしかしてこれを取りに工房へ行ったの?」
「ええ。化蛇が蘇ったっていう話を聞いて、お守り代わりに作っておいたんです。
 で、家に持ち帰ったら入れ違いで晄ちゃんがお城へ行ったっていうから……」



莉由に涙目で睨まれながらも、自分の寿命も百年ぐらい縮まったと話す舜はやっといつもの
ほんわりとした笑みを浮かばせた。
無事でよかったと、姉とともに兄に抱きすくめられる晄。
照れながらも兄姉の抱擁を受け止める彼は、肩口に所在なくこちらを見つめている少女と目が合った。



「春陽」



それは一度城で出会い、兄をここまで運んでくれた少女だった。

兄弟たちの抱擁をどこか遠くで眺めていた春陽は晄の呼び声にハッと我に返る。
彼らを一度でも羨望の眼差しで見ていたことに気付き頭を振った。



「晄、無事でよかった」
「春陽が舜兄をここまで運んでくれたんだよね? ありがとう、助かったよ」
「私からもお礼を言います。おかげで助かりました」



晄と舜にお礼を言われ曖昧に笑って見せる。
唯一、事情のしらない莉由だけは訳がわからないような表情で春陽と兄弟の顔を見比べていた。

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