短編

□忘れもしない入学式
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突然、仕事の都合で海外へ行くって言われたら誰だって驚くと思う。

正直嫌だ。
英語だって学校で習っている範囲で、会話なんてダメダメだから、
日本に残りたいって告げれば案外すんなり許しが貰えたことには拍子抜けした。
ただし、お母さんは海外に一人で行くことになるお父さんが心配なのか、一緒について行くという。
……娘の心配は二の次か。
残された私は一人、宮城に住んでいる祖母のもとにお世話になることが決まった。
志望していた高校も急遽変更。
特に行きたい!と思っていたわけでもなかったので、すぐに気持ちの切り替えもできた。

そうして迎えた入学式。
私は愕然とする。
明刹工業高校というからに男子生徒が多いのはわかるが、なんで女子生徒が数えるだけしかいないんだ!
聞くと、前までここは元男子校だったとか。
それが共学になって、女子も入るようになったがいまだにその数は少ないんだそう……。

なんてこと。
勉強と引っ越しのせいで調べることを完全に忘れていたのだ、私は。



「はぁ……」



私は入部希望用紙を持ってトボトボと歩く。

用紙には何も書いてない。
部活は入る気もないし、それに文化人だし、更にここは男だらけ。
友達もまたもにできるのか悩んでいるのに部活どころではない。
いや、だからこそ部活に入るべきか……。

すると悶々と考えていたところで突然目の前が暗くなる。

なんだろう、雨でも降るのかな?

空を見上げようとすれば、いつの間にか数人の男子生徒に囲まれていたことに気付き、私はギョッとした。



「なあ、男子バレー部のマネージャーにならねえ!?」
「あ!ちょっと、この子は女の子なんだから女子バレー部に入るのよ!」
「うるせーッ、少しは分けろよな!」
「はあ?あんたたちみたいな野蛮人がいる部に誰も入りたいわけないでしょう?」

「あのっ……すみませ」



すごっ。

先輩らしい数人の女子が、垣根を分けるかのように現れ救出してくれたはいいが。
今度は男子バレー部と女子バレー部の板挟み状態となってさあ大変。
部活に入る意思はまったくないというのに、本人を置いてのこの論争。
彼らがワイワイやっているうちに、ばれないよう退散しようとすれば、不意に彼らの集団から弾き出された。



「わっ、とと……!」
「危ねえな。何やってんだアイツら」



咄嗟に受け止めてくれた何か。
頭上から呆れたような声が降ってきて、私は後ろを振り返った。
そこには、黒と黄色のボーダーシャツを着た人物と何人かの男子生徒が立っている。

この人たちも部活の勧誘なんだろうか。
でもボーダーを見ただけじゃ一体何部なのか私にはわからない。



「気を付けてね。今ここは戦場なんだから」
「(戦場?)す、すみません」



確かに戦場かもしれない。
私がいなくなっていることに気付かないまま、いまだに言い争っている先輩たちを見て納得する。

女の子のような可愛い顔立ちをした男子生徒に注意を受け、とりあえずお礼を言って頭を下げた。
その視界の端で、また一人の生徒がどこかの部の犠牲となるのを目にしながら、
そろそろこの場から逃げた方がいいかもしれないと本気で考えはじめた。







忘れもしない入学式







ボーダーシャツを着た彼らはそれから走ってどこかへと消えていった。
一体なんだったんだろう。

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