小説(・ω・)

□アメリカで!(仮)
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いきなり、目の前の男の踵が飛んできた。
両手で受け止める。
なるほど、悪くない。
クレアは目の前の男を軽く値踏みする。
防がれる前提での攻撃だったのだろう。防がれたことに対する驚きは見せていない。
「名前は?」
「榎木津礼二郎」
探偵だッと男は何故か偉そうに言った。
よくわからない男である。
榎木津はクレアと対峙するかたちをとり、
「さあ、弔い合戦といこうじゃないか」
とやけに楽しそうに言った。
多分榎木津は弔い合戦という言葉の意味などわからず使っているのだろう。彼が依頼人と面識がないということは先程の言動から明らかだ。彼はただ、合戦という言葉の通り暴れたいだけなのだ。
暴れたいのはクレアも同じである。
「よし、いいだろう」
クレアは受けて立つことにする。
日本人から売られた喧嘩を買わないというのは気がひけた。日本人を馬鹿にしているわけではないのだが何となくいやだった。そして、買った喧嘩には負けられまい。
「誰の弔いなのかは知らないが──」
クレアは本気でやろうと心に決めた。

こうして二人は拳を交えることとなる。
その隙に──。





和寅は依頼人がどうして殺されたのかも何故依頼人を殺した犯人と榎木津が闘い始めたのかもわからない。英語で交わされた会話のせいだけではない。榎木津は依頼人とは会ったことも話したこともないのだ。喧嘩をする理由などどこにも見当たらないのである。
「先生──」
寅吉は、不安そうにドアの影から先行きを見守った。見守ることしかできいと知っているからだ。どうせ止められはしないのだ。
寅吉は榎木津と闘っている相手を見つめる。
返り血を浴びて顔はよく見えないのだが、かなり強そうであった。そもそも榎木津の蹴りを止められる人間なんてそうはいない。榎木津が喧嘩で負けるところなど見たことはなかったが今回に限っては本当に不安な心持ちであった。
こういった理由もあって、寅吉はそちらを大いに気にしていた。そんな訳だから後ろからそっと忍び寄る陰に気付けるはずもなく。
「──ッ!?」
突然身体を押さえ付けられて薬をかがされた寅吉は、気を失ってしまったのであった。
それでも喧嘩は続けられて──。
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