小説(・ω・)

□楽しいから。
1ページ/2ページ

彼女は笑う。
楽しそうに。
「だからね、ガラコ。僕は楽しければいいの。僕は楽しいからここにいるんだ」
彼女は一層楽しそうに目を細めて、私に向かって手を伸ばす。彼女の白く細い指が喉に纏わりつく。指はいやに冷たかったが、気持ち悪くはなかった。
「ねえ、ガラコはどうしてここにいるの?いつからいるの?」
私は答えずに目を細める。
「言いたくないの?」
彼女は笑顔を消し、不思議そうに首を傾げる。その仕草が何ともコケティッシュで可愛らしい。
「ねえ、聞いてる?」
聞いてはいるが言いたくないのだとこたえてやると、彼女は不満そうにむくれてみせた。
「何よもう。いいじゃない教えてくれたって」
彼女はついにそっぽを向いてしまった。私は彼女のコロコロ変わる表情が可愛らしくてつい意地悪をしたくなっただけだったのだが、こちらに顔を向けてもらえないのなら仕方ない。
「教えてくれるの?」
彼女は期待いっぱいの表情で私の目を見つめる。
私が仕方ない話してやるかと口を開こうとした瞬間、いつからそこにいたのか店主が先に言葉を発した。
「ガラコはな、わしが拾ったのよ」
いつものひひひ笑いを浮かべながら。
「そうなの?」
彼女は不審感の籠った目をしながら私に確認をとる。店主を信頼していないのだ。まったく。
私は頷いた。事実だからだ。
「ふうん」
それでも彼女はいくらか疑ったままで。
「拾われたんだ」
私の頭を優しく撫でる。
「何百年も前の話だがな」
と店主は嘯く。
もうそんなになるのか。
有り得ない話ではない。
「へえ」
彼女は信じていないのであろう、適当な相槌をうった。
「ガラコはな、元は普通の猫だったのよ」
「そうなの?今も普通の化け猫だと思うけど」
たしかに飼われ始めのうちは普通の猫と同じように化けなかった──ように思う。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ