小説(・ω・)

□アメリカで!(仮)
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榎木津は、アメリカにいた。
寅吉を引き連れて。
観光──ではない。
一応は仕事である。
「で、これからどこへ行くんだい?」
億劫そうに空港へ降り立った榎木津は、これからどこへ行けばいいのかもわかっていない。興味がないだけなのだが。
「依頼人のところですよ、先生。そろそろ迎えが来るはずですが」
実際どこへ行くのか、明確なことは寅吉にもわかっていない。
寅吉は、迎えを探すと同時に珍しい風景が気になってかきょろきょろと顔を動かす。近代的な町並みである。
「ふうん」
榎木津は興味なさげに息をつく。
そもそも、ここにいることが榎木津にとって不本意なのである。父親がどうしてもというから仕方なく話を受けただけなのだ。よくあることだが、相変わらず面倒臭い。
「おお、あの長い車だったら面白そうだな」
榎木津は近付いてくる長い黒い車に興味を持ったようだ。榎木津の期待通り、その車は目の前に停まり、アメリカ人らしい顔つきの初老のスーツの男が降りてきた。
「榎木津様でいらっしゃいますね?」
お話しはかねがね──慇懃無礼な態度でそう日本語で言った。
寅吉などからすれば、その男の態度が気に入るはずないのだが、榎木津はさして気にした様子を見せない。ただ、車に対しての興味も褪せたようではあったのだが。榎木津がそんなだから、寅吉が何か言うこともできない。
二人は案内されるまま車に乗り込み、依頼人の待ついやに立派な屋敷にたどり着いた。
屋敷にはいたるところに日本風の飾りつけが施されていた。どうにも依頼人は日本気触れであるようであった。しかし、中途半端すぎるその飾りつけは日本人から見れば悪趣味にしか見えない。屋根のしゃちほこなどあからさまに設計ミスとしか思えない。これならばまだアメリカの様式にのっとったものを造れば良かっただろうと榎木津は思う。
何かここいやですと子供らしい正直さで榎木津にこっそりと話し掛けてくる寅吉。榎木津も悪趣味だなと声の大きさなど気にせずにこたえる。ここまで案内してきた男は、始終無言であった。
そうして榎木津達は主のいる部屋らしきところへ通された。

そこには──。
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