小説(・ω・)

□そうだ、日本に行こう!
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私は、後悔していた。
こんな二人になど構わなければ良かったと。
他の人達がしていたように、無視でも何でもしてしまえば良かったのだ。
だが、断るにしても今更すぎる。
乗りかかった船といったところか。
幸か不幸か、二人が言っている意味は少しならわかる。
どこか食事できる場所がないか、ということらしい。
これから私が向かう京極堂の隣は蕎麦屋だった筈である。それはこの目眩坂を登ってすぐだ。
それを伝えれば良い。伝えれば──。
しかし、そういうわけにもいかなかった。
二人の妙なテンションの高さに気圧されて、私の対人恐怖症が発症したのである。
もう何も応えられない。
普通の人間であればこんな私など相手にせず、すぐに呆れたようにして立ち去ってしまうものなのだが。
──普通ではないのか。
私は漸く二人の格好のおかしさに気付く。
男の方はタキシード、女の方は中世ヨーロッパで上流階級の女性が着るような赤を基調にしたドレスを着ている。二人の格好は明らかに周囲から浮いていた。
外国ではこれが普通──とも思えなかった。
そんなことはどうでもいい。
二人は尚も食い下がり私に話掛け続けた。
私もどうにかして応えようとするのだが言葉は意味を成さない。たとえ日本語だったとしても喋れなかったかもしれない。自信のない英語なら尚更である。
私はどうしたら良いのか解らなくなった。暑くもないのに汗が止まらない。
突然、後ろから肩に手を置かれた。
驚いて振り返ると、そこには見慣れた顔があった。
「やあ関君。知り合いかい?」
天下の迷探偵・榎木津礼二郎であった。
彼とは旧制高校時代からの知り合いだ。
普段私は彼にけなされてばかりいるのだが、今は天からの救いである。
私は俄かに安心する。
「いや、その──」
安心しても私はどもったままだったのだが。
榎木津はそんな私よりも、私の目の前にいる奇妙なカップルと思しき二人組の方に興味を持ったようだった。
榎木津は流暢な英語で二人に話しかけ、楽しそうに会話をし始めた。
──似ている。
私は榎木津とこのおかしなカップルに、何となく通じるものがあることに気付く。
普通と違うところ──である。
気付いたところで本人達に面と向かっては言えまい。
私がそんなことを考えている隙に、その三人は坂へ向かって歩き始めていた。
私は慌てて追いかける。目眩坂を登っているということは、榎木津はどうやら京極堂の方向へと向かっているようである。


 
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