小説(・ω・)

□アメリカで!(仮)
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部屋の惨状は目を覆いたくなるほどで。
床どころか壁にまで飛び散った赤い血。
中心に立つ周りの赤と同化した赤い男。
薄暗い部屋の中でも、存在感を放つ赤。
榎木津は眉を顰めて赤い影を見つめる。
相手方もこちらに気付いたようである。
「日本人か?」
英語で、男が尋ねた。
男は殺しの現場を見られたというのに、特に逃げるような素振りも見せない。
先生──と、寅吉が榎木津の服を強く掴み、その後ろに隠れる。怯えている。
「日本人だ」
榎木津は流暢な英語で返した。
薄暗い部屋。佇む男。
榎木津には彼の記憶が視えた。
寅吉が怯えるのも無理はない。
彼は殺すことに慣れすぎている。
「殺し屋かい?」
ストレートに尋ねる榎木津。
「殺し屋だ」
彼の答えもストレートだ。
「アメリカで殺し屋のヴィーノって言ったら有名だぜ?」
「知らないな」
榎木津は彼から目を逸し、後ろの寅吉の様子に目をやる。
「なあ和寅、あれは依頼人だと思うかい?」
「お、落ち着いて下さい先生。依頼人は多分──」
寅吉は何となく、そこで言葉を飲み込む。
榎木津はつまらないとでも言うように呟く。
「依頼人がいないなら帰っていいのか?」
何よりも面倒事に巻き込まれるのはごめんだった。面倒臭い。
「お前、面白いな」
そう言われても榎木津にとっては答えにはならない。正直帰りたいのだが。
「まあ遊んでけよ」
ヴィーノが言う遊ぶというのがどういう意味だかわからないが、取り敢えず帰って寝たい。
ふと、ヴィーノの記憶に見たことのある人物が映る。それは一度会っただけの少し大人びた少年。
名前。
「ええと、チェ──チェ──?」
榎木津は、何か言おうとしたのだが、少年の名前が思い出せない。
ヴィーノは思い至る。
「チェス君?」
「そう──その──知り合いなのかい?」
「まあ知り合いというか何というかだが」
ヴィーノはチェスのことを思い浮かべる。列車の中でのことを含めての記憶。榎木津はものすごく厭そうな顔をしてみせる。
「そんな小さな子をいじめるのはどうかと思うぞ」
ヴィーノは溜め息をつく。
「あの子は特別だ。貨物に爆弾を積まれるなんて──車掌として許せなかった」
榎木津は多くを追求しない。だから、今のヴィーノの言葉だけではよくわからなかった。
それでも、榎木津の気分変えるには十分だった。
「よし、和寅。僕は遊んでから帰るぞ」
下がってろ──と、榎木津は高らかに宣言した。
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