才色飛車〜利き駒の調べ〜
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「暑苦しい武田軍に来てから俺はつくづく思ったぜ。彼方さんの忍になって良かったってな」
「旦那だって…世話を焼きたくなるような感じだし。いい人だよ」
「でも男としての喜びはないだろ?」
「…そりゃあね」
「そんな猿飛に良いことを教えてやる。彼方さんが言ってたお前の印象だ」
「え!なんて言ってた!?」
佐助は目を輝かせた。
気になる女の子に自分はどう思われているのか…興味がないわけがない。
「かっこいいって言ってた」
「うんうん、それで!?」
「色気があって…声がたまらない、とか」
「いやぁ分かってるねぇ…!」
「そんでこっからが重要だ。彼方さんが一番必死に話してたのはな…」
「な、なにさ…」
「服が面白かった、だとよ」
「…へ?」
「一体どこに潜んでるつもりなんだろう、そもそも忍ぶつもりがあるのかな、森で熊の監視とかするの上手そう、とかな…。それはもう楽しそうに話してたぜ」
「彼方ちゃん…俺様を何だと思ってるの…?(ズーン)」
「良かったな。服だけでそんなに楽しんでもらえて」
「……………(手強い子…)」
落ち込んでしまった佐助を見て八尋は少し笑った。
自分がいない間に忍び込んだことへのささやかな報復を果たしたのだ。
会話も無くなり、二人は誰もいなくなった庭を見つめた。
「あ」
「旦那と彼方ちゃんだ」
「いつの間にか仲良くなっちまったよな」
「ほら彼方ちゃんって他の女の子よりさっぱりしてるというか…旦那的には話しやすいんじゃないかな」
「彼方さんも気が楽だって言ってたしな。互いの人柄が合ってたんだろ」
「年齢も年齢だしそろそろ旦那も恋に目覚めてくれるといいんだけどねぇ」
「…あの様子を見る限りじゃ無理だろうな」
八尋は蝶を追いかけ走り回っている二人を見て苦笑した。
幸村も彼方も仕事や戦などになると凛々しい姿を見せるが、普段の行動は子供っぽい。
だからこそ面倒をみたくなってしまうのだがきっとこいつも同じなんだろう、と忍二人が互いに思っていたことは知らない。
「八尋殿ー?おぉ佐助殿も」
「冬春さん」
「柊野の旦那どうしたの?」
冬春は疲れた顔をして屋根へと登ってきた。
「元就様がな…」
「「あぁ…」」
「なにやら落ち込んでおられたから、彼方殿絡みと思って話を聞いたのだが。やはり外でがまずかったのだろうか、等と言い始めて…」
「…さっきのか」
「いきなり襲っといて外も中もないよね」
「しまいには媚薬は作れるかと問われる始末!」
「完全にヤる気じゃねぇかよ!」
「順序間違ってるでしょ!?」
そうだよな!と冬春は同意の意見に深く頷いた。
「まぁ作れるかと言えば作れるんだが…」
「冬春さん薬とか毒には詳しいもんな」
「へぇ、そうなんだ」
「医者の元にいたことがあったからな」
そう言った後に冬春はまた暗い影を落とした。
「しかし最近元就様は妙な質問や怪しい薬の注文ばかり…!私は氷援隊副隊長…彼方殿の補佐や隊員の管理が仕事のはずなのに!」
「ま、まぁ落ち着いて…。ここにも忍にも関わらず主のオカンをやってる奴がいるわけだし」
「ちょっと雀部、誰のこと?」
「さぁな?それより冬春さん、怪しい薬って一体何を頼まれてたんだよ」
「あぁ…媚薬もそうだが…。惚れ薬に始まり、猫耳が生える薬やら体が小さくなる薬やら…」
「何を目論んでんのーっ!?」
「元就様って一体…」
「そろそろ断りきれない気がする」
「てか作れんのかよ」
八尋が驚いた顔をして冬春を見る。
冬春は当然だと言わんばかりに少し胸を張った。