才色飛車〜利き駒の調べ〜
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「………」
空も海も漆黒の闇に染まった時刻。
夕げを終え、皆が皆好きなようにくつろいでいる頃だろう。
ただ気になるのは一つだけ。
彼方は猿飛といるんだろうかということだ。
……なんか女々しいな俺。
でも自分でも驚いている。
こんなに嵌まっちまうとはなぁ。
彼方ほど気になる女は今までにいなかった。
そのとき俺の部屋に向かってくる気配がした。
後で酒を持ってこいと言っておいたはずだから誰かが持ってきてくれたんだな。
「元親ー入っていい?」
「なっ彼方!?」
「いいよね、よし入っちゃうぞー」
「ちょ、おい待っ…」
人の返事も待たずに部屋へ入ってきた彼方。
その手には酒を乗せた盆がある。
「お酒持ってきた」
「おぉ…てかいきなり入ってくんなよなぁ。着替えたりしてたらどうすんだよ」
「…思考が乙女」
「誰が姫若子だぁ!」
「そこまで言ってないし!大体元親が着替えてたところでいつもと大して変わんなくない?」
「あぁ?」
「上は普段から無いようなもんだし。下があるか無いかの違いじゃん」
「下が重要なんだろォ!!?」
下に何も身につけてない奴がいたら驚くだろうが!
どう考えても下の方が大事だろ!!?
俺がそう主張すると彼方はきょとんとして口を開いた。
「え、元親の重要な点はチクビじゃないの?」
「違ぇえ!!!」
「上着着ないのは鍛えた腹筋とチクビを見せ付けようとしてるからなのかと…」
「んなワケあるか!」
「でも“元親”って言ったら“チクビ”って印象が広まってるよ」
「はぁああ!?どういうことだぁ!?」
「八尋ちゃんはたまに“チクビの兄さん”って言うしー、さっき佐助さんも“チクビの旦那”って言ってたしー」
「アイツら…!」
「元就さんもね、“あのようなチクビに構うでない”って言ったことがあった」
「元就ィイイ!!!!」
「なんか元就さんが言うとチクビも高貴な感じになるよね」
「なんねぇよ!」
「えー?」
もうなんなんだ!
猿飛がコイツといて、チクビと聞かないことがない、と言っていたがその通りだ。
なんでそんなにこだわるんだよ!
「まぁ飲みなよ!注いであげる!はい、お猪口」
「あ、あぁ頼む」
へら、と笑う彼方に気が抜けていくのが分かった。
あんなにモヤモヤしていた気分が彼方とくだらねぇ話をして、酌をしてもらうだけで晴れていくなんて、俺も単純だよなぁ。
「お前も飲めよ」
「えー…」
「飲めるだろ?」
「うん、飲めるけど日本酒は苦手だし…ってか元就さんに止められてるんだよね」
「元就に?」
「男の人と飲む時は八尋ちゃんか冬春がいないと飲んじゃダメだって」
「あー…」
そういえば中国での宴会を思い出した。
潤んだ瞳に甘える態度。
誘うような表情で擦り寄ってくる彼方…
………………。
「よし、飲め」
「え!?だからー…」
「少しなら平気だろ?ちょっと付き合えよ」
「はいはい」
諦めたように苦笑した彼方にも猪口を渡して酒を注いだ。