才色飛車〜利き駒の調べ〜
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日常の中で
「うーあー」
自室にて書簡の整理や城下の状況把握など、仕事をこなす元就。
その後ろでは暇を持て余した彼方がゴロゴロと転がっていた。
「元就さーん…つまんないですー」
「絵でも描いておれ」
「飽きたんですよー…元就さぁん」
「…畳の目でも数えていろ」
「……一、二、三、四、五、六、七、八…」
「っえぇぃ鬱陶しい!相手をしてやるから起き上がれ!」
相手をしてもらおうと元就の部屋にやって来たものの彼は仕事中。
邪魔をするわけにも行かず、後ろで絵を描いたり、書き損じの紙で折り紙をしたりしていたが飽きてしまった。
我慢できずに元就に声をかけると一度は一蹴されたものの、彼方のウダウダとした雰囲気に呆れたのだろうか、元就は仕事を中断した。
「わーい元就さーん!ww」
「ふん…//将棋でも教えてくれるわ」
「えー別に興味無いな…」
「教 え て や る」
「…はい」
元就は部屋の隅にあった棋盤を持ってきて、駒を並べ始めた。
はっきり言って彼方は将棋に興味は無かったが、元就が仕事を中断させてまで構ってくれるのだ。
そうそう我が儘も言えず、大人しく元就の手元を見つめた。
「よいか?そなたから見てここから先が敵陣だ」
「はい」
「自分の駒が敵陣に入ったときと敵陣から出たとき、そして敵陣内で動くときに駒は“成る”ことができる。成った駒は性能が変わるが、王将と金将は成ることができぬのだ」
「王将?」
「玉将と同じものだ…この駒ぞ。金将はこれだ。王や玉、金と略す」
「ふーん…(“金”と“玉”か…フフ)」
「…何をにやついておる」
「い、いや別に…あははー…」
顔に出ていたのだろうか。
考えていた内容が内容であったため、彼方は笑って誤魔化した。
だが元就は問い詰めることもなく次の説明に移る。
「駒は全部で八種類。成ったときの動きも含めると全部で十通りの動き方をする」
「………」
「あからさまに面倒くさそうな顔をするでない。よいか?王は将棋の中で一番大切な駒だ。この駒が取られてしまうと負けとなる。これは隣接する升なら何処にでも移動できる駒だ」
「一番守らなきゃいけない駒ってことですか?」
「そうだ。そしてこれが……」
歩兵に香車、桂馬、金将、銀将、と次々に駒の説明をしていく元就。
興味の無かった彼方もいつの間にか真剣に聞いていた。
「……となるのだ。金将と銀将は理解したか?」
「はい」
「ならば次は角行だ。これは攻防に大活躍する。わずかな隙間も見逃さずに敵陣や自分の陣地で働き、相手の一瞬の隙をついたり、攻めから一転して受けに回ったりする」
「へぇー、大忙しですね(攻めだの受けだの)」
「最後は…飛車。飛車は攻めの主役だ。重厚で安定した攻めを得意としておる。敵陣を破った後の王を詰ましに行く最強の駒が飛車だと言える」
「最強の駒…」
「どうした?」
今までとは違う反応を示した彼方。
飛車に手を触れ、じっとその駒を見つめる様子に元就は問い掛けた。