才色飛車〜利き駒の調べ〜

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「私…飛車みたいになりたいです。一番の決め手になるような…元就さんにとって最強の駒に…」

「…彼方。金将や銀将、角行、飛車など攻守に優れた働き駒を何と言うか分かるか?」

「…分からないです」

「利き駒、だ」

「!利き駒」



ハッとしたように目線を上げた彼方を見て、元就は口角を少し吊り上げた。



「利き駒ってそういう意味だったんだ…。単に使いやすい駒のことかと思ってた…」

「それと…知らぬのか?そなたが“利き駒”の他に呼ばれている名を」

「えー…?毛利の犬、とかじゃなくてですか?」

「違うわ」

「じゃあ…?」

「“才色飛車”、だ」

「さい、しょく…ひしゃ…」



知と美を兼ね備えた優秀な駒。
各地で流れる噂には、いつからかその呼び名が加わっていた。



「なりたいと言わずとも、そなたは既に飛車よ。だが…そなたのどの辺りが才色なのかは理解できんがな」

「えぇー別にいいじゃないですか!賢くて可愛い利き駒ちゃんで」

「…そのようなことをよく自分で申せるな」

「…言わないで下さい。自分でも言った瞬間に後悔したのに」



遠い目をして乾いた笑いを漏らした彼方。
しかし、あ、となにか気付いたように声をあげた。



「でも…変幻自在に動く氷援隊の隊長としては“飛車”より“角行”の方がよかったんじゃ…」

「俊敏な攻防の変化か」

「はい」

「そなたには飛車が合っていよう。戦い方や氷援隊の動かし方を見れば、飛車と言われるのも納得できるわ」

「えー?」

「守りに回っていても結局はすぐ攻め手になっているだろう」

「…やられる前にやれですよ、ヘッ」

「開き直ったか」

「だって…守るのは色々考えなきゃいけないし。それに私が全部薙ぎ払っておけば、元就さんも何も考えなくていいじゃないですか」

「………」

「元就さんにはゆっくりしててもらいたいっていうか…」

「……!」



彼方の言葉に元就は軽く目を見開いた。
そんな様子を見て彼方はニヤリと笑った。



「元就さん?もしかして照れてます?」

「っうるさい!//」

「かーわーいーいー」

「黙らぬか!//」

「Σ痛!いたたっ!ちょっと待っ、あいたっ!」



豆まきのように目の前にあった駒を投げ付ける元就。
彼方は飛んでくる駒から逃げるように顔を背けた。



「ぎゃっ!服の中入ったーっ!」

「なんだと?…取ってやろう」



元就の目がきらりと光った。
そしてすばやく彼方の傍へと移動する。
それに対してなにやら不穏な気配を彼方は感じていた。



「え!?ちょ、来ないで下さい!」

「取ってやると申しておる」

「結構ですーって、きゃぅっ!服!服の中に手を入れようとしないでくださ…っ」

「動くでない」

「元就さん止めっ…ゃん!」

「Σぶっ…//」

「「………?」」



部屋の外から音がした。
不審に思った二人は外の様子を伺う。
するとそこには鼻を押さえてうずくまる冬春の姿が。



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