才色飛車〜利き駒の調べ〜
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「よいな?氷獄を肌身離さず持っておれ」
「はいはい」
「返事は一度でよい。…決して手放すでないぞ。氷獄がなければそなたは…」
「大丈夫ですよ。ちゃんと持ってますから」
彼方殿が甲斐へご出発される日が来た。
元就様は門の所でずっと彼方殿に注意をしていた。
その心配ぶりに、供の八尋殿が彼方殿の馬を連れたまま苦笑いしている。
「雀部、彼方が余計なことをせぬよう見張っておれ」
「はっ」
「もー!大丈夫ですってば!じゃ、行ってきます」
「お気をつけて」
「…ふん」
馬に乗ろうとしていた彼方殿は、ふと動きを止めた。
そして元就様に近づいていく。
「元就さん」
「なん…っ」
ぎゅぅ
「お土産買ってきますね」
彼方殿が元就様に抱きついた。
元就様は驚いて言葉を飲み込んだが、すぐに落ち着いて彼方殿の頭に手を置いた。
……目のやり場に困る。
(どうして八尋殿は普通に笑ってられるのだろうか)
「土産などいらぬわ。…早う帰れ」
「はい…。じゃあ」
彼方殿は馬に跨がると、一度こちらを振り返ってから門を出ていった。
八尋殿も一礼して、その後を追った。
「…氷獄、頼むぞ」
元就様の呟きに、彼方殿の腰にある氷獄がカタカタと少し動いたように見えた。
彼方殿の武器、氷獄。
不思議な武器だ。
まるで彼方殿と一体化しているように感じることがある。
私は詳しく教えていただいていないが、彼女にとって非常に重要なものらしい。
気にならないと言ったら嘘になるが、彼方殿が私を部下としてくれるならそれでいい。
彼女こそ私の命。
二度目の人生を与えて下さった方。
この安芸の地で、彼方殿と彼女が慕う元就様に全てを捧ごうと決めたのだ。
「…どうぞよい旅を」
私はこの地で貴女が笑顔でご帰還されるのをお待ちします。