才色飛車〜利き駒の調べ〜

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「利き駒、ね…」



豊臣軍の名高き軍師、竹中半兵衛。
彼は噂の利き駒について知るべく、偵察に向かわせていた忍からの報告を聞き、手を顎へとやって呟いた。



「名を彼方。南蛮の物とも思える風変わりな服装をしております。武芸に富んでいるとは思えぬ若い女でした」

「まぁお市の方だってそんなものだしね。それで様子は?」

「利き駒は彼女が率いる氷援隊と朝稽古するだけで…後はこれと言って何かするわけではありません」



絵を描いたり習字をしたりはたまた無意味に廊下を転がってみたり。
女中とお茶をして兵士とお喋りをして、だらだらと昼寝をしたり。
彼方のだらけた日常を見ていた忍はさぞや退屈だったろう。
口にすることでもない、と半兵衛に報告することは無かった。



「元就君との関係は?」

「それが…なんと言うか…理解できません」

「は?」

「毛利元就にべたべたと抱きついたり甘えてみたり…毛利はそれを引き剥がして踏み付けたり叩いたり。かと思えば彼女を抱き込んだまま執務をしたり菓子を与えたりと…」

「…確かに理解できないね」



毛利軍では今や当たり前の光景も、半兵衛には理解できそうに無かった。



「“才色飛車”の名に納得できるような実力を知りたいな。そろそろ僕も動くか…」



もしも使えそうなら豊臣軍に引き込みたい。
秀吉が作る未来のために働いてもらおう。

半兵衛は未だ分からぬ彼方について思いを巡らせた。



「彼方君か…興味深いよ」



くすり、と緩く弧を描いた口元から笑いが漏れた。




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