才色飛車〜利き駒の調べ〜

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甲斐より







日輪崇拝者毛利元就様へ

甲斐に到着しました。
途中で明智光秀氏に遭遇しましたが、私は無傷です。
しかし八尋ちゃんが怪我をしてしまい、熱も出てしまったので休ませてもらっています。
ただそんなに心配する状態ではないので安心してください。

それから小田原城に行くことになりました。
風魔小太郎さんが迎えに来てくれる予定です。
とても楽しみです。
均整に鍛え上げられた身体を拝めると思うとついつい興奮してしまいます。
彼の腰の線は素敵過ぎると思います。
伝説の忍と呼ばれる彼ですから、きっと身体も伝説級でしょう。
触ってもいいですかと聞いてみようと思います。
そういえば元就さんは彼を見たことがあるんですか?
まぁそれはどうでもいいんですが、とりあえず早く彼の腰が見たいです。
もちろん元就さんの腰も好きです。
脚も好きです。
元就さんを私にください。
嘘です。

武田の皆さんや奥州の御二方には良くしてもらっています。
ご飯も美味しいです。
おそばは最高でした。
他にも美味しそうな物がたくさんあります。
そう言ったら政宗に私の方が美味しそうだ、今晩どうだ、と言われました。
私が何か言う前に政宗はとてつもなく笑顔の小十郎さんに連れていかれてしまったので言えませんでしたが、どう対応すべきでしたか?
恥ずかしがるほど可愛い女じゃないので、政宗の方が美味しそうだよじゅるり、とでも言うべきだったでしょうか。
それともやっだー!政宗さんってば破廉恥なんだからうふふ!とでも言って笑う方がいいですか?
小十郎さんに聞くと逆に私が怒られそうだし、幸村じゃ破廉恥破廉恥言って話にもなりません。
八尋ちゃんは寝込んでるし、佐助さんも政宗と同じような匂いがするので聞けません。
なので教えてください元就さん。

では、体にお気を付けて。

彼方より愛を込めて








「………」



阿呆め。
元就は一言そう思った。
彼方から送られてきた書簡。
重要な内容はあっさりと片付けられ、下らない内容ばかりが綴られている。
色々と突っ込みたい箇所があったが、必死に書いたであろう字には好感が持てた。
慣れない毛筆と書体を地道に練習しているのは元就が一番知っているのだ。
また、他の文字よりも“元就”の部分だけ妙に達筆なのも彼を喜ばせる要素だった。
その字だけ他より練習しているとは随分と可愛いらしいことをするではないか。
元就は少しだけ目の険を和らげた。



「……はぁ」



書面には納得のできないことばかり。
だが彼方らしいとら言えば彼方らしい。
元就はため息を付いて書簡を折り畳んだ。
そして彼の視線は折り鶴へと向かう。
書簡に挟んでいたらしく、先ほど読む際に落ちてきた。
書き損じの紙で折ったのだろう、うっすらと墨が滲んでいる。
ただなんとなく気になった元就は、その長い指で折り鶴をゆっくりと開いていった。



「………」



書き損じではなかった。
ただ一行だけ書かれていたのは…


『元就さんがいないとなんだか寒い』


書状よりもずっと素直に書かれているようだった。



「ふっ…なら早よう帰らぬか、馬鹿彼方」



元就はほんの少し苦笑する。
そして部屋の外、彼方がいつもバタバタと入ってくるところに視線をやり、陽の光に目を細めるのだった。




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