才色飛車〜利き駒の調べ〜
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「おぉー…」
小太郎は城下近くに着くとどこかへ行ってしまったので、彼方は知らない土地でキョロキョロしながらひとり歩くこととなった。
小太郎ってば案内じゃないじゃん、とぼやきながらも町中を興味深そうに見て回る。
城下町の穏やかだが活気あるその様子に氏政の人柄を見たような気がした。
「(…かまぼこって売ってないのかな)」
小田原=かまぼこ、と結びつけた彼方。
いつから小田原のかまぼこが有名になったのか彼女には分かりかねたが、「バサラだしな、うん、あるだろ」と結論を出した。
だがどこに行けばかまぼこを購入できるのかは分からず、ふぅ、とひとつため息を吐いた。
「お嬢さん」
「!」
その時彼方の後ろから声が聞こえた。
どうやら自分のことらしいと振り向くと若い男が数人。
「もしかして町に詳しくないんじゃない?」
「俺らが案内してやろうか?」
「そうそう、なんか困ってるみたいだし」
いわゆるナンパだ。
美しい仕立ての良い着物に庇護したくなるような憂いだ表情――…
良い所の娘がひとりで出てきて困っているとでも思われたらしい。(実際には頭の中はかまぼこのことだったが)
彼方本人も目立っているなとは気付いていた。
だがそれは良い着物を着ているからだと思っていて、一部の男からの邪な視線の意味は分かっていなかった。
「(…うぜー)」
「ね?美味しい店も知ってるしさ」
「行こうぜー?」
うざったいことこの上ないが、何かされたわけでもない。
隠し持った氷獄を使うほどでもないので、上手く断れないかと口を開いた。
「お気遣いなく。ひとりで大丈夫です」
「遠慮しないでよ〜」
「ほらほらこっち」
「っ」
グイッ、と強く腕を引かれて彼方は痛みに眉根を寄せた。
それを見ていた小太郎は、今まで様子を伺っていたがもう我慢できないと彼方の元に向かおうとした…その瞬間。
「やめたまえ。女性に乱暴は良くないよ」
「(この声…!)」
男の声が彼方の後ろから聞こえた。
振り返ってみると笠を被った旅人風の人物がそこにいた。
顔は見えなかったが、声と口調でその男が誰であるのか見当が付いた。
「あ゛ぁ?なんだてめぇは」
「俺たちこれからこの子と楽しむんだから邪魔しないでくんない?」
「彼女は楽しそうに見えないのだけれど」
「んだとコラァ!」
憤慨した男が彼方の腕を離す。
彼女はその隙にさっと旅人風の男――竹中半兵衛の後ろへと隠れた。
ハラハラと見守っている町の人々からは怯えた女性が助けに入った男の後ろへと身を隠したように見えたが、彼方の心情は“面倒だから半兵衛に任せとこう”といったものだった。
「目的の彼女も嫌がっているしもう諦めたらどうだい?」
「くっ…覚えとけよ!」
口元しか見えないが余裕ある笑み、静かな威圧感。
そして腰の刀を見て武家の者だと分かったのだろう、歩が悪いと踏んだ男たちは走り去っていった。