才色飛車〜利き駒の調べ〜
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「ご、ごめんなさい…変なトコに入っちゃったみたいで…」
「苦しいよねそれ。もう平気かい?」
「はい。えっと…今の世の中、でしたっけ…。んーそうですねぇ……矛盾、ですかね」
「矛盾?」
「上の人間が世の中を良くしようとすれば、徴税や戦で民が苦しむ。民を優先して徴税や戦を放棄すれば、国は他国に支配され…場合によっては荒廃する。他国の支配を逃れようとすれば…結局戦になる。厄介極まりないと思いませんか?」
「…そうだね。じゃあそんな世界をどう思う?」
「正直なところ世界なんてどうでもいいんです。世界が混沌の中にあっても、身の回りの日常は意外と平和なものですから。だから世界どうこうよりも自分の平穏を保つことの方が困難かつ重要なんですよ、私には。自分勝手だけど一番嘘偽りのない考えがそれですね」
「…君は変わったことを言うね」
「よく言われます。でも皆も思ってることじゃないでしょうか。言わないだけでね」
彼女はクスクスと笑ってそう言った。
……いいな。
「ねぇ、僕と共に来ないかい?」
「…え?」
「お美代さん、君はとても頭が良い。僕らのために役立ててくれないか?」
「え?え?」
「服装から君が良いところの娘さんだとは分かってる。でも今の生活よりも良い暮らしは保証するし、家の人にも上手く説明するよ。だから僕と来てくれ。君の才能を埋もれさせてはもったいないよ」
「私そんな大した人間じゃ…」
「いや、才能や能力の問題じゃないんだ。人とは違った考えはとても興味深い。きっとこれから必要になってくる。だから君のような人間が必要なんだ。何より…」
何より、僕が君を――…
「な、何より…?」
「あ、いや何でもないよ。それより…来てくれるだろう?そうだな…着物をたくさん用意させよう。侍女も何人か付けて良い部屋を用意する。他に望むことがあれば出来る限り叶えてあげられるし、君は遊んでるだけでいいんだ。意見を聞きたいときにちょっと協力してくれればいいだけだから。そうだよ、それがいい。ね?そうしよう」
「(Σ勝手に話が進んでるーっ!)いや…でも私は…」
「心配はいらないよ。善は急げだ、さぁ行こう」
「ちょ…!(うぉおおい!!!どうしよー!こたろーっ!!!)」
彼女の手を取って立ち上がった瞬間だった。
「あんたお美代さんだろ?あっちで男が探してたよ」
声が掛けられたのは。