才色飛車〜利き駒の調べ〜

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小田原城からの帰還



「王手!」

「おぅおぅ彼方は強いのぉ」

「氏政さんが手を抜いてくれたからですよー」

「はて?何のことか分からんの」

「もー」



穏やかな笑い声が部屋から漏れる。
城下町から帰ってから彼方は氏政と将棋に興じていた。
表情豊かに話を聞いてくれる彼方を氏政はすっかり気に入ってしまっていた。



「だがほんになかなかやるのぅ」

「元就さんに教わったんですよー」

「ほぉ、あの毛利に…」

「いつもこてんぱんにされるんです。攻めが分かりやす過ぎるとか守りが甘いとか散々いじめるんですよ!」

「うむ、容易に想像できるわぃ」



苦笑しながら言った彼方に氏政はうんうん、と頷いた。



「のぅ彼方。本当にこの後すぐ帰ってしまうのか?」

「そうですね…あまり待たせると厄介な将棋にうるさい人がいるもので」

「ほっほ!いきなり呼んでしまったのは儂じゃからの、仕方ないわ。じゃがやはり寂しいもんじゃ」

「えへへ…じゃあまた来てもいいですか?」

「もちろんじゃ!」

「良かったー、同盟国じゃないからダメかと」

「そうだのぅ…」

「?どうかしたんですか?」



どことなく沈んだ氏政の雰囲気に彼方は首をかしげた。



「いや、なに…武田とは一応休戦協定を結んでおるのじゃが…」

「え!そうだったんですか?(知らなかった…!)」

「うむ…だが武田は毛利や伊達と同盟を結んだ。北条も同盟を結ぶべきなのかのぅ」

「織田の勢力と豊臣の急成長を考えると悪くはないと思いますよ?」

「そうなんじゃが…」



歯切れ悪く氏政は言葉を続ける。
彼方はそれを黙って聞いていた。



「武田のも上杉のもいちいちうるさいんじゃ。儂の…北条の力を分かっておらん!」

「はー…」

「特に武田のは…」

「信玄公ですか?」



うむ、と頷いた氏政に向かって彼方は言葉を続けた。



「でも信玄公言ってましたよ、氏政さんは仁将だ、って。民のことを考え、家の歴史を守ろうとする将だって」

「甲斐の虎…」

「優しいからそれ故に他国と渡り合っていくのが大変だろう、って心配してました」

「………彼方」

「はい」

「少しひとりにしてくれるかの」

「はい、じゃあ私は帰り支度でもしてますね」

「すまんのぅ」

「いえいえ」



彼方が出ていった部屋で氏政は何かを考えるようにじっと畳を見つめていた。



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