才色飛車〜利き駒の調べ〜
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「(やっぱ寝れない…)」
夜も更けた頃。
寝付けずにいた彼方は部屋から出て星を眺めていた。
「(こじゅと佐助にバレてたとはなぁ…)」
寂しくて眠れていない、なんて恥ずかしくて仕方ない。
でもイイ歳してようがなんだろうが寂しいものは寂しいのだ。
彼方は未だ着かぬ元就を想ってため息を吐いた。
「彼方殿…?」
「あれ、幸村?幸村も寝れないの?」
「なんだか目が冴えてしまって…彼方殿も?」
「うん」
幸村は昼間の出来事を思い出してどぎまぎしながら言葉を紡いだ。
激突したことについては既に謝ってある。
彼方も笑って許した。
けれど幸村は消えることのないもやもやに苦しんでいた。
「星が綺麗だねー。幸村も一緒に見ようよ」
「は、で、ではお隣失礼いたしまする」
「あはっ、そんな畏まらなくていいのに」
クスクスと笑う彼方に幸村はまた顔を紅くした。
「っくしゅ!」
「彼方殿っ寒いのでは?薄着ではお身体が冷えます故」
「………」
「な、なんでござろう?」
くしゃみをした彼方に、幸村は自分が着ていた羽織を脱いで彼女の肩へと掛けてやった。
それを受けて彼方はポカンと幸村を見つめる。
幸村は何かしてしまっただろうかと疑問に思った。
「幸村って…天然タラシだね…」
「か、からし?」
「タ・ラ・シ!辛くないの!…自然に女の子落とすの上手いんだねって言ったんだよ」
「Σな!?そ、そのようなことは…っ!!」
「しーっ!皆起きちゃうよ」
「ぐ…っ」
「ふふ…そう真面目に捉えなくてもいいって。とにかくありがと!あったかいよ」
「そ、それなら良いのでござるが…」
それ以上何も言えなくなった幸村は、夜空を見上げて気を落ち着かせた。
それでもなかなか火照りは治まらない。
しかし彼方から発せられた言葉に、幸村は体が一気に冷えていくのを感じた。
「あーあ…元就さんまだかなぁ。やっぱ寂しいやー」
「……っ」
「まぁ行くって言ったのは私なんだけど…って幸村?どうかした?」
何故彼方の言葉に苦しくなったのかも分からないまま、幸村は口を開いた。
「い、いや。その…恋仲の二人が離れているのなら寂しく感じるのも当然であるかと…」
「ん?元就さんとはそういう関係じゃないよ?」
「ち、違うのでござるか!?」
「うん」
「某はてっきり彼方殿は元就殿をお慕いしているものと…」
「好きは好きなんだけどね。それが恋かどうかは自分でもよく分かんないの」
「そうでござったか…」
どこかホッとした自分に幸村は驚いた。
恋仲ではないと知って、どうして安心したのか。
安心した心とは裏腹に、頭は未だにごちゃごちゃとしたままだった。