リクエスト部屋

□チョコレート・プレイ
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「ごくでらぁ、ケーキ作るよ」

 エプロンをつけて、気合十分らしい山本が甘い声で獄寺を呼ぶ。
獄寺はゲームを止めてのろのろと、それでも 彼にしては速やかに山本のいる台所へと移動した。用意されているのは小麦粉、バター、砂糖、卵、そしてたっぷりのチョコレート。甘くなることは間違いない。
 小麦粉と水分が足された場合の結果だとか、卵のたんぱく質の熱変性だとか、そういうことは理屈で分かっている。けれど獄寺はいつまで経ってもこの粉と粘性ある物体があのケーキに化けることが信じられない。

「チョコにすんの?」
「うん。生クリーム添えるから。泡立ては獄寺な」
「うん」

 獄寺は奇跡的なほどに料理が出来ない。それはお菓子作りにおいても同じだ。だから呼ばれたところですることは無いのだが、獄寺は山本が料理をしている所を見るのが好きだ。山本も、普段はそっけない獄寺が寄ってくるのが嬉しいらしい。
 だからいつも山本は獄寺を呼ぶし、獄寺はつまみ食いをしたり邪魔をして遊ぶのだ。
 チョコを溶かす山本を眺めて、ふと気付く。

「お前まさかバレンタインが近いからチョコなわけ?」
「ん?そうだよ当たり前じゃん」
「…単純だな」
「いいじゃん別にー。チョコ好きだろ?」

 甘ったるい匂いが漂う。山本はそのなかでへらりと笑った。
溶け始めたチョコを一つすくいとって獄寺の 口に近づける。少し躊躇ったものの、獄寺は素直に口を開けた。

「あーん」
「ばーか」

チョコは甘い。美味しいのでチョコのついた山本の指を丹念に舐める。

「…獄寺さーん、何のつもりデスカ」
「遊んでるつもり。…ん」

 ちゅ、と指を吸うと、山本が顔を赤くする。
 満足したので指を離すと、山本は真っ赤にした顔を片手で覆い、はあ、と大きく息を吐いた。チョコレートは湯せんされて、いつのまにか固形物の面影も無くどろどろと形を変えている。

「…ケーキ、後でもいい?」
「やだ」

 意地悪なのは十分承知で答える。ひひひ、と性格の悪そうな笑顔を作ってやると、山本がムッと眉をしかめた。そしてその顔のまま獄寺の舐めた指を自分も舐める。何をしやがるんだと、今度は獄寺は頬を染めた。

「お前、仕返しかよ」
「んーん。だって獄寺、まだチョコ欲しいんだろ?」

 山本は何やら企んだ様子で、口を端をニッと吊り上げる。その笑みを山本が浮かべるときは、大抵ロクなことにならない。
 そのまま山本はもう一度チョコレートをすくいとった。完全に溶けたチョコは山本の指にどろりとまとわり付き、今にも垂れて落ちそうだ。指2本分たっぷりとつけると、山本は逃げようとした獄寺を器用に片手で制して引き寄せる。

「はい」

 チョコのついた指を1本だけ獄寺の口に持ってくる。唇を閉じたけれど、代わりに唇とその周りにチョコがべったり付いてしまう。もう一本の指に付いたチョコは首筋や鎖骨にぼたぼたと垂れ、Tシャツを汚した。
 生暖かい感触に獄寺は眉を顰める。




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