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□となりに君
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中学3年間一度も同じクラスになったことはなかったけれど。
真正面から見つめる機会はなかったけれど。
廊下ですれ違ったりするくらいしか接点はなかったけれど。

高校で同じ部活に入った栄口勇人という人間はびびりで緊張しーで。こいつ大丈夫かと思ったりもした。
でもいつも笑ってチームを盛り上げるムードメーカーで。
田島のようなスター性もないし、花井のようにリーダーシップがあるわけでもないのに自然と皆が集まるんだ。
栄口がそこにいるだけで安心するというか気が抜けるというか。
一度そんなことを本人に言ったらちょっと納得いかないって顔されたのを覚えてる。
「お前の顔みてっとなんか気が抜ける。」
「は?なに、急に。」
「いや、なんつーかたまにそう思うんだよ。」
「気ぃ抜けるってそれってどーゆー意味だよ。」
不機嫌そうな顔になった栄口が不思議だった。
「なんだよ、別に褒めてんだから怒ンなよ。」
「それぜってー褒めてないよな!」
褒めたつもりだったんだけどな。
ぶちぶち文句を言う栄口を見ながらふっと笑ってしまった。のがいけなかったのか、それからしばらく帰り道の栄口の機嫌は悪いままだった。
それでも俺の機嫌は良いまんまだった。
隣に栄口がいるから。

きっつい練習を毎日繰り返してて、大好きな野球だからやめたいとは思わなくてもちょっとバテた日とかはあって。
そんな時に栄口が締まりのない顔でバテたーとか言いながら笑ってんのを見ると肩に入っていた余計な力がふっとなくなるんだ。
まだまだやれるって気になんだ。


「阿部ーどーした?集合だってー。」
「おー今行くー。」
グランドでボーっとしてたみたいで声がかけられる。
それが栄口ってだけで気分は上々だ。
小走りで栄口に追いつくといつもみたく、にっと笑いかけられて。
「今日も疲れたなー。」
「だな。」
お互いに笑いあって。

ほら隣には君の笑顔。

それがいつのまにか俺の日常。

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