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□君と野球を
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いつだって全力で野球バカで。
意地は悪いし、口は悪いし沸点低くてすぐにカッとなって怒鳴るし。
ゴーイングマイウェイを地で行く奴で、同じ野球部じゃなかったら絶対こんなに仲良くならなかっただろう。

だけど、いつだって真っ直ぐで。野球に真摯に取り組んでるその姿は心に迫るものがあって。
なんか野球が楽しいなと、前から大好きだった野球が更に面白く感じるんだ。
阿部と、西浦でみんなとやる野球は今までよりずっとずっと楽しいんだ。

不器用だけど、キャッチャーとしていつだって野球のことばかり。ピッチャーのことばかり。三橋のことばかり。
でもそんな阿部の姿がグラウンドにあると安心するんだ。
空気がピリッと引き締まるよーな。やる気がでるし野球ってたのしーな、と笑いあえるのがすっごくいいんだ。



くたくたに疲れた体を引き摺るようにして帰る夏を間近に控えたむっとした空気の中、阿部とふたり。
今日も一日しっかり部活の練習に励んで、こうやって帰るのが毎日だ。
「夏大まで休みなしかな?」
「そーだろーな。」
「このままじゃ恋愛して彼女作って、デートして楽しい高校生活ってのは望めないよなー。」
「だろうな。」
「阿部はほしくないの?彼女。」
「いや、べつに。今野球以外に余裕ないし。」
「やっぱ阿部だよなー。」
「なんだよ、お前だってそうなんじゃねーのかよ。」
ちょっと不機嫌になる阿部がおかしい。こんなのちょっとした言葉の応酬なのに。
「まーなー。部活休みなんてなさそうだしね。そうなるのかなー。」
「野球があんだからいいじゃん。」
慰めてくれてんのか阿部があまりに胡散臭い顔で笑うからつい茶化してしまう。
「阿部は見た目と違って結構優しーよな。」
「お前だって見た目と違うだろ。つーか見た目と違ってってなんだよ。」
「俺はそんなことないよ。」
「そんなことあんだよ。」
自分で気づかねーだけなんじゃね、なんて阿部が今度は意地悪く笑いながら言うから負けずに笑い返してやる。
「なんだよ、それ。」
こうやって軽口を叩けるのがすっごくいい。
見た目と違うってなんだんだろうって、ちょっと気になるけど阿部は言葉の裏をよまないといけないよーな奴じゃないし野球第一の単純明快な奴だから。
そして、一生懸命な阿部の隣にいることができるのがとても嬉しいんだ。

「じゃーな。」
「おーまた明日な。」
手を振ってまた明日。

明日、また大好きな野球を。
君と一緒に。

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