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□君と繋ぐ
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「もっと俺を頼れ。」
「や、もう十分頼ってるよ。」
「頼ってねーよ、頼ってんだったらこれくらいさせろ。」
「だってそんなん阿部の迷惑になる。」
「めーわくだなんて思ってねーって。」
「大丈夫。」
ちゃんと帰れるから、そう言う栄口は阿部から見ても全然大丈夫じゃない。
「大丈夫そーじゃねーから言ってんだろ。」
「でも。」
「だから!迷惑とかじゃなくて、俺がそーしたいの。わかる?」
「………。」
「お前がそーやって無理してんの見んの、俺が嫌だし、俺以外を頼るのも見たくねーんだよ!!」
「無理なんて、してないよ。」
「わかった。無理してんじゃなかったとしても俺がそーしたいんだよ。」
「………でも。」
ここまで言ってもまだ渋る目の前にいる栄口にどうしてここまでこんな簡単なこともさせてくれないのだろうと阿部は憤る。
「お前にかっこつけたいんだよ。」
それくらいわかれよな、と阿部はそっぽ向く。
怒ってるような口調なのにも関わらず、栄口は阿部が照れてるみたいに見えて。
言われている内容にも、大切に思われてることがわかって。
こっちこそ照れてしまうってものだ。身の置き場に困るというか、居たたまれない。
「もっと俺がいて良かったって思われてーんだよ。」
そうやって開き直ったかのように栄口に言い放つ阿部は文句なしに男前で、いてくれて良かったなんて思ったことなんて数知れず。
いつも頼れるその存在に甘えきってしまうのが栄口には耐えられなかった。
「阿部はかっこいーし、俺いつも思ってるよ。」
「あー……そーかよ。」
視線が泳ぐ阿部に自分がなにを言ったのか自覚した途端、恥ずかしさが栄口を襲った。
そしてそんな栄口を見た阿部も栄口の恥ずかしさが伝染したみたいに赤面する。
「それでも、もっとって思うんだよ。わかったか?」
それこそ脅すみたいにドスを効かせて阿部が睨んでくるけれどちっともこわくない。
甘やかされてるなあと思う。ほんとうに。
確かにツライけど、我慢できないほどじゃない。
それでも阿部はその我慢をするなと言う。頼れと言う。面映くて素直に受け取れないこともあるけれど阿部はいつだって栄口を思ってくれてる。
「わかったらぐだぐだ言うんじゃねー。」
なんでこんなにかっこつけられないんだと思いながら阿部は栄口の荷物を奪い取り、手をひいて歩く。
「…俺、お前に無理させてない?」
ここまできてもまだそんなことを言う栄口に阿部はため息を吐く。
「無理してんのはお前。」
「じゃあ迷惑じゃなかったら、お願いします。」
「だからそー言ってんだろ。」
つーかなんでそんなに嫌がんだよ、ほんとに。
呆れたように阿部が言うので。
「ごめん。」
「ばーか。謝ってんじゃねーよ。ほら。とっとと帰ろーぜ。」
お互いなんでこんなに恥ずかしいことになってんだろと思いながら、阿部は栄口の手を握り栄口は阿部に手をひかれ、ふたり一緒に帰途につく。
「あーあ。お前が駄々こねたから遅くなったじゃねーか。」
「だから気にしないで帰ってって言ったじゃんか。」
照れ隠しにもならない阿部の軽口に栄口もさっきとは打って変わって憎まれ口を叩く。
「そんなんできるわけねーだろ。バカたれ。」
握られた手を軽く引っ張られて栄口はよたつく。
とんと肩がぶつかって、阿部との距離がまた近くなる。
「ありがと。」
「おー。その代わり明日には治せよ。」
じゃなかったら、明日も手繋いで帰るからな。

そう笑いながら言った君を忘れない。


次ページはあとがきです。
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