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□惚れた弱み
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基本的に栄口は大雑把だ。
しっかりしてるかと思えば妙なところで抜けている。
まあ根がまじめだからか、大ポカすることはないが、なにかと抜けている。
おまけに無頓着だ。
特に自分のことに関して。
他人のことはよく見てるしよくわかってんのになんでああまで自分のことだけわからないのか不思議になるくらい。
大人っぽく落ち着いているのかと思えば子供っぽくいたずらもするし。
ものすごくアンバランスなのだ、栄口勇人という人間は。
今も室内でもなく気温も下がった野外で、部活後の汗をかいた素肌はもうとっくに冷えてて寒いだろうにがばっと勢いよくシャツを脱ぎ、その上半身をさらしている。
少しは奥まったところに行くとかすればいいのに、そうは思うが阿部はじっとその背中を見つめてしまう。
実は、栄口は背中がすごくきれいだ。
色素が薄いのか色白で、がっしりととは言えないがうっすらと筋肉のついたその背中は日にも焼けることなく、やたらと艶めかしい。ついつい手を伸ばして触ってその触り心地を確かめたくなる。
そして実際触ったときの栄口の反応も阿部にとって好ましいものだった。
驚いて、ビクつかせたその体を振り返らせて触った犯人が阿部だとわかると安心したかのように笑うのだ。
阿部がそのまま触り続けるとくすぐったいよと言うその様にまでもっともっとと触りたくなるのだ。
そう遠くない過去のことを思い出しながら、こんなこと考えてんのは自分くらいだろうと思う。てか、自分だけであってほしい。
そんな目で他の奴らが見ると思うだけで阿部は腸が煮えくり返るのがわかる。
ほんとに、どうしようもない。
これは、尽きることない独占欲。
栄口にだけ生じる感情。

―――お前は俺のものだろ?

そんな阿部の独占欲もおおらかな栄口はあっさりといともたやすく満たしてくれるのだ。
阿部にだけ見せる特別な栄口。
情けなく笑う顔、にやりと悪巧みする顔、ふにゃっと力のぬけた顔、真っ赤になって照れる顔、悔しそうに泣きそうになる顔。
阿部を見つけて笑うその栄口の笑顔。
もう、これ以上ないくらい阿部は栄口に嵌っている。
栄口はよく惚れた弱みだよねーと言うがそれこそこっちのセリフだと思う。

だから今は目の前にあるそのきれいな背中を独り占めできるよう、阿部は行動する。

惚れた弱みを最大限の強みに変えて。

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