text

□Happy Birthday
1ページ/3ページ


6月8日。
この日をこんなに意識したことなんてこれまでの人生の中で初めてかもしれない。
阿部は思う。
高校に入学して漸く学校にも慣れてきて。
季節も移り変わって春から夏へと。その合間にある梅雨に入って間もない今日。

通学路をチャリでひた走る阿部にとって大切な大切な日。

もっと早く起きるはずが、ガラにもなく緊張したのか昨夜寝付けず目覚ましが鳴っても目が覚めなくて。
親に声をかけられて起きてみれば危うく朝練にまで遅刻しそうな時間になっていて。
慌てて用意して、慌てていても朝食はしっかりと取ってから家を出たのはいつもよりも遅い時間。

本当なら30分くらい前に家を出て、学校に着く時間がまちまちな栄口を通学路の途中で待つ予定だったんだ。
驚く栄口におめでとうと言って、一緒に学校へ行くはずが。
なんだってひとりで遅刻しそうになってんだか。
昨日の自分に恨み言を何度言っても足りないくらいだ。
実は日付が変わる瞬間にメールでおめでとうって言おうかどうか悩んで眠れなかっただなんて情けなさすぎて自分を笑うことすらできない。
それもメールは勢いがつかなくて送れず仕舞い。
情けねー。
梅雨独特の水分を多く含んだ空気の中ますます阿部の気持ちも重くなるというもの。
せめて朝一番にはおめでとうを言いたい。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ