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□君とふたりで
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「じゃあなー。」
そう言って先に帰っていく後姿を見つめる。
きっとこうやって見ていることも栄口は気づいてるんじゃないかと思う。
他のやつはたいして気にもしていないだろう。相変わらずうるさく騒いでるけど、阿部だけは知ってる。
ここ最近、栄口が阿部と帰らなくなった。
寄り道をするからと言って手を振られたり、帰ろーぜと声をかけるタイミングをずらされたり。
そして、いつのまにか栄口は帰ってる。
あからさまに阿部を避けるんではなく、あくまでもさりげなくやんわりと距離を取られている。
最初の頃は気にもしてなかった。
でもこう何度もとなるといくらなんだって気づく。
なんで一緒帰んねーのと聞こうとしたけどその機会すら栄口は与えてくれなかった。
だからきっとこれはわざとなんだろう。


なんとなくいつも傍にいて。
居心地が良くて、よく笑うその姿を見てるとほっとする。
さりげない気遣いや交わす気の置けない相手だからこその軽口に優越感に浸ったりして。
ちょっとしたこと、例えば部活後にコンビニで食べるおやつなんかに以前に阿部が好きだと言ったものをさりげなく選んでいたりして。
「阿部これ好きだったよね。一口あげる。」なんて言われたり。
田島や水谷なんかがソレ見てちょっかいかけてきても、「また今度なー」と笑いながら断って阿部の横にいたり。
数え上げたらキリがないくらい。
放課後だって、練習の後にだっていつだって隣にいないことのほうがしっくりこないくらい馴染んで。
気を許されてるんだって感じてた。

これが男と女の間だったら、それこそお前ら付き合ってんじゃねーのと認識されるのに。どうしてお前との間だったらそうならないんだろう。もどかしく思ったこともあった。

それでも栄口は隣にいてくれたから安心してたんだ。
ずっとそんな風にいられるって。

それが少しずつ距離ができてきて。
理由もわからない、なんでこんなことになったのか。
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