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□君が心配
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「巣山!」
声をかけられて振り向くとそこには、阿部が。
「栄口まだ休んでんの?」
「みたいなだな。」
横に並ぶのを待ってなんとなく一緒に歩く。巣山は今教室から出て保健室に向かうとこだった。
朝練から体調が悪かった栄口は今保健室で寝ている。
そして、阿部とこうやって偶然を装って会うのは今日2回目になる。1回目はちょうど栄口を保健室に連れて行く、まさにそのときだった。栄口本人は気づく余裕もなかったようだったけど。
「1限から辛そうにしてたからな。まあ本人は少し寝ればよくなるって言ってたけど。」
「ふーん。」
気のなさそうな返事とは裏腹に阿倍の表情はとても心配そうだ。
そんなに気になるんだったら見に行けばいいのに。
きっと阿部はずっと朝から気を揉んでいたのだ。こんな、普段だったら通るはずも用もないはずの廊下で巣山に声をかけるためだけに待ってるくらいに。
そうは思うが見に行ったりはしないんだろうなあ、阿部だもんなと思う。
「そういや何か用?どっか行くんだったのか?」
「いや、別に用とかじゃねーよ」
「ふーん。」
ちょっと意地悪な質問だったかも。阿部が正直に栄口が心配で、なんて口にするはずがないってわかってんだけど。
阿部って本当に損な性格だよな。
仕方ないから、ちょっと背中を押すくらいしてやろう。
「時間あんならさ、ちょっと様子見てきてくんない?栄口んとこ行こうと思ったんだけど、俺担任に呼ばれてんだ。」
お節介だとは思うけど。こういうのって第三者のほうがよくわかるっていうかなんていうか。
そういうキャラじゃないのにな、苦笑してしまう。
担任に呼ばれてるっていうのは嘘だ。昼休みの前に栄口の様子を見に行こうと思ったけど、阿部が行ったほうが阿部にとっても栄口にとっても良いだろうから。
「おー、じゃあ行ってくるわ。」
「起きてたら昼どうすっか聞いといて。」
「ん、わかった。あとなんかあるか?」
わかった、と言ってコクンと頷く様が素直でちょっと笑える。いつもだったら絶対見れない仕草だ。
もう気は栄口のところに飛んでいて他に気を使うことができていないんだな。
「あー、あと帰るようだったら荷物持ってくからって言っといて。」
「伝えとく。」
「じゃあ俺こっちだから」
手を軽く振って阿部と別れた。
ちょっとしてから振り返ったら阿部は早足に廊下を進んでいた。走りたいんだけど走らないのは変な意地があるからかな。
無理しがちな栄口の体調が少しでも良くなって、素直じゃない阿部の心配が減ってくれたらいいんだけど。
お互いがお互いを大切に思ってるのなんて傍から見てればわかるのにな。わかってないのは自分たちくらいで。その感情が友情なのかそれを越えるものなのかはわからないけど、もうちょっとうまくいったらいいのにな。

そう思いながらそんな二人が微笑ましくて笑ってしまった。
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