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□君が心配
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「失礼ーします」
カラカラと音を静かに立てて保健室のドアを開ける。
「あら、どうしたの。怪我でもした?」
中にいた少し年配の保健医が聞いてくるのに、ちょっと詰まりながらも見舞いですと答える。
「あ、1年1組の子の?」
「はい。」
「まだねー少し熱があるからあっちのベッドで休んでるわ。」
何人も友達が見舞いに来てくれるなんて人望があるのね、なんて言うのを聞いて阿部はびっくりする。
「さっきの休み時間にも3人お見舞いに来てくれてて。同じ野球部の子だって言ってたかな。」
屈託なくいいわねーなんて言われて、はあと曖昧に返す。
誰だろう。3人って言ったら9組の奴らかな。
先を越されたようでちょっと気に食わない。
巣山に言われなければここにも来ることができなかったのにどうにも理不尽な感情が湧き上がる。
「さっきは寝てたみたいなんだけど目が覚めてたらこれ渡して熱測ってもらって。」
体温計を受け取ってカーテンで区切られてるベッドへと近づく。
栄口は起きてるんだろうか、起きてたらなんて言おう。ちょっとカーテンにかける手が躊躇する
「あべ?」
そうしていたら中から小さく声をかけられて、その声が戸惑いがちだったから勢いよくカーテンを開ける。
「具合どうだ?」
「うん、だいぶ良くなった。」
「あーいーから。寝てろ。」
ベッドの横においてある椅子に座ると体を起こそうとするから手で制してベッドに寝かせる。
「起きてたんだな。さっきまで寝てたって聞いたからまだ寝てるかと思った。」
「なんか阿部の話してる声が聞こえてさ。」
熱があるからなのか少し栄口の声が聞き取りづらかったけれど、阿部にははっきりと聞こえて。
顔に熱が集まりそうになる。
俺の声が聞こえたから起きたってのかよ、そんな。そんなこと言うな。
「なんかあった?」
栄口はそんな動揺を知るはずもなくて、普通にそう聞いてくる。気にしてるほうが馬鹿みたいだ。
「巣山から伝言、昼どうする?って。」
「あーうん。昼には教室戻るつもり。そーいえば今何時?」
「3限終わったとこ。あ、熱測れってこれ渡された。」
手に持ってた体温計を渡してやる。
「じゃあ用済んだし。俺教室戻るわ。」
「あ、うん。」
椅子から立ち上がって帰ろうと踵を返してから立ち止まる。
「あんま無理してんなよ。」
顔を見て伝えられたらと思っても真っ直ぐ目を見て言うことができない。それでも、どうしても心配してるんだと伝えたくてついぶっきら棒に言って足早にその場から離れようとする。
「あ、阿部」
小さく掠れた声で呼び止められて。
「ありがと。」
顔を見たかったけれど、見なくて良かったと思った。
きっとすごく締まりがない表情をしている自覚がある。こんな顔見られたくない。
ごめん、と謝られるよりお礼を言われて喜んでいる。
おーと言ってそのまま振り返らずにベッドから離れる。
朝から続いていた苛々がゆっくりと消化されていくのがわかる。

大切だから心配しているんだって気持ちがちゃんと伝わったような気がする。
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