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□逃げる君
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栄口は朝練前のグランドの前を突っ切った。
それはもう爆走の勢いで。今計ったなら、もしかしたら自己ベスト更新できそうなくらいに必死に。
そんな栄口の様子を不審に思わない野球部員たちではなくて、案の定栄口は声をかけられた。
「あれ栄口?」
「栄口?あ、ホントだ。おーいどこ行くんだ?」
「ごめんっっ。」
なんだなんだ?と泉が疑問に思っていると顔を真っ赤にした栄口が走り抜けていったそのあとを阿部が小走りにやってくる。
こっちはなんだか怒ってるような?いつもよりも格段と人相が悪い。
「阿部。」
「花井、悪い。今日の朝練俺と栄口10分くらい遅れるってモモカンに言っといて。」
「は?なんで?」
「あーートイレ?」
「逆方向じゃねーか。」
「まあ気にすんな。」
じゃ、と言って阿部は栄口が去っていった方向へ、先ほどとは違い猛スピードで走り去っていった。
「どうしたんだ?あいつら?」
花井が近くにいた泉に聞くと、肩を竦められて終わった。

ああ、朝っぱらからあいつらのフォローに回らないといけないのか、とげんなりとした思いのまま花井はグランド整備作業を続けた。
でもあいつらなら、なんだかんだ揉めたとしてもなんとかなるだろうと安心しているからこそ、花井はそれだけで済むのだけれど。
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