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□君の犯行動機
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このとき水谷に悪気があったわけではなかった、ついついいつも田島や三橋にするように栄口にも同じようにやってしまっただけだった。
その水谷の行動にぎょっとしたのはその言葉を言われた栄口本人ではなく、阿部で。
騒ぐ田島と三橋を落ち着かせて、栄口を見やると水谷と仲睦まじく話していて。なんとなく間に入っていけなかったところに。
なんだ、ソレ。あーん、って。お前。
動揺する阿部に構うことなく当の栄口は苦笑しながらも口をぱかっと開けて水谷の手ずからお菓子を食べている。
その様子にあんまりにも腹が立って腹が立って。
もちろん、水谷の行動にもだが、栄口にも苛つく。なんだってそんなこと許してんだよ。
間に入っていけないなんて思っていたことをすっかり忘れて阿部はずんずんと水谷と栄口に近寄っていく。

「おい、栄口。」
上から聞こえてきたドスのきいた低い声にびくりと肩を震わせたのは声をかけられた栄口だけじゃなく隣にいた水谷もだった。
なんか、阿部の機嫌が悪い?
阿部は普段から無表情だし、眉間に皺が寄ってて怒ってるのがデフォルトなんて思ってたこともあった水谷だったけれど。
最近は優しい顔して笑っているときもあって、阿部ってこんな風に笑うんだなーなんて思っていたのに。
まあ、そんな優しい顔の阿部が拝めるのは水谷自身ではないんだけれど。
見上げた阿部の表情は不機嫌丸出しって感じで水谷は声を出さないまでも栄口とのやり取りに内心はらはらと心配していた。
そんな水谷に頓着することなく阿部は栄口にだけ意識を向けていて。
「あれ、どうした?」
「うん?あれ?」
「そう。あれ。」
あらら?なんだ、この会話。
水谷は会話になっていないやり取りを不思議に思いながら聞いていた。
栄口だってアレじゃあわからないだろー。
なんて考えてると「あー。あれね。」なんて栄口が言って通じてしまった。
えーー!?あれこれそれで話が通じるって。
すぐ隣で交されている会話に水谷は唖然とする。
そういうもんなの?と慌てて周りを見回してみると、皆しょーがないなーといった顔をしている。
良かったー、おかしいと思ってるのひとりじゃなくて。
変なところで安心した水谷はようやく自分の置かれている状況がわかってかなり居心地が悪い。
ツーカーでなされる会話に周囲がどれだけ呆れていても阿部は気にもしないし栄口は気づいていない。
ふたりの世界って感じ。
水谷はやってらンないとばかりに助けを求めて栄口と阿部から離れたとこにいる野球部の面々に合流する。
「お疲れ。」
泉に苦笑いしながら労いの言葉をかけられて、水谷はおーと笑い返す。
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