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□オレンジの空
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今日の部活は雨のためメニューも変更されて、珍しくモモカンも今日は休息日にしましょうと言っていつもより早い帰宅となった。
栄口はなんでも部室に忘れ物をしたとかで都合のいいことにこの場にいない。
阿部はなんとか口実を見つけて、帰途につくみんなから離れる。
こんな風に部活が早く終わることなんてほとんどない。
滅多にないこの状況に少し浮かれてんのかもと阿部は思う。
こういったことが栄口と付き合うようになってから増えた気がする。

一緒に帰れたらいつもより長く一緒にいられんじゃないか、なんて。
野球は楽しいし、毎日充実してて練習中なんかは考えもしないのだけれど。
ふと野球から離れたときや部活の合間の休憩時間、授業中や休み時間に昼食のときなんかに栄口のことを考えてしまう。
今なにやってんだろ、とか。
なんだこの思考は。と随分阿部は悩んだが。
考えちまうものは仕方ない。
諦めるのも早かった。
昨日から降り続いてる雨はだいぶ弱まり今では小雨程度にしか降っていない。
自転車でカサを差すのも面倒になってこれくらいの雨なら濡れてもたいした事ないと思いカサをたたんで阿部は栄口を待つ。
確か、今日は栄口は雨だからって電車通学だったはずで。
駅までの道になるここで待ってれば栄口に会える。
そう思うと雨に濡れながら待つこの時間も嫌じゃなくなるから不思議だ。

10分程たった頃だろうか。

阿部が待っていたところの反対側の歩道を阿部に気づかず栄口が歩いていく後姿が見えた。
栄口に待ってるなんて連絡してないし気づかれなかったこともしょうがないとわかるのだけれど、阿部は不機嫌になる。
気づけよ。ここにいんだろ。
だからちょっとした悪戯心で。声をかけずに後を付いていく。
栄口は阿部に全然気づかず、いつもよりゆっくりとした足取りで雨の中ビニール傘を差しながらひとり歩いている。
その水溜りを避けながら歩いている様子を見て、いつ気づくだろうと小さく笑う。
楽しく見ていられたのは初めのうちだけで、そう長くは楽しめなかった。
そのうち気づいてもらえないことにイライラが募って。
大通りから駅への抜け道となる細い道に栄口が曲がるのを見て、いい加減こんなに近くにいるのに一緒にいない状況に焦れて阿部は後ろから声をかけた。
「おい。」
振り返った栄口の顔はびっくりしてるのがわかるほど目をまん丸に見開いていて。
驚かすことができたことに溜飲をさげて。
でも、栄口は一緒に帰ることを思いもしないのか目の前の水溜りを凝視しているから。
回り道を提案すると更に呆けた顔をして。
なんとなく眉間に皺が寄る。
癖になるからやめなよと栄口からも言われているのにどうしてもやめられない癖のひとつだ。
少し強引かと思ったけど話を進めると栄口が笑うから。
回り道だけでなく、少しの遠回りくらいなら許されるだろうか。
自転車を間に挟んだ相合傘で、お前が気づかなかった分の遠回りを。
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