text

□First Kiss
2ページ/5ページ



付き合いはじめて2ヶ月くらいたって、でも阿部と栄口の間にあるものは付き合う以前となんら変わらなかった。
それはもう、拍子抜けするくらいまったく。
手をつないだりデートをしたりすることもなく、もちろんセックスもキスすらなかった。
ちょっと仲の良い部活仲間、ふたりを表すのに一番適している単語はそんな感じで。
阿部は、付き合いはじめた頃からそういったものがあるものだと思っていたけれど。
となりにいる栄口を見てるとそういう感じは一切しなくて。
あれ?付き合うってこんなんなのか?
確かに栄口と一緒にいる時間は増えた、増えたけど恋人同士って感じはしない。
阿部は俄かに不安になった。
もしかして、あのときのあの言葉がふたりの関係を変えたと思ってるのは自分だけなのか?と。
ちゃんとお互いの気持ちを確かめ合ったと思ってたけど。
普通、好きだという言葉を友人同士で口にしたりはしない。
でも感情が昂ぶったときに仲間同士で言うこともあるんじゃないか?
阿部にも覚えがある。
以前三橋に対して好きだと言ったことがあるし言われたことがあった。
あれは、なんというかそれ以外にうまく言えなかったのもあるし、なんとか三橋とわかり合いたいって気持ちが表れただけだったけれど。
栄口の場合はどうして三橋のときと違うと思ったのか。
そんなん、わかりきってる。
阿部の気持ちがそうじゃないからだ。
栄口に持ってるものは、仲間だとかそんな感情じゃない。
恋愛対象としての好きで。となりにいる栄口を触りたい抱きしめたい。こんなこと仲間意識で思ったりしない。
だからって栄口もそうだとは限らないんじゃないか。
勘違いを、してるのか?
今のこの状況がそうだとしたら。このままなにもなかったことにするのがいいのかもしれない。
そのほうがきっとふたりの間がこじれることもなくて。以前と同じように、気の合う友人としてやっていける。
頭ではわかっているのに、阿部には納得することができなかった。
一度手に入れることができたと思ったからなのか、前のようになんてできない。
気持ちを抑えることができない。
もし壊れることになっても、この居心地の良い関係が保てなくても。それでも栄口と、この先へ行きたかった。
それが栄口を傷つけることになるとしても。
だから。キスをしたいと言って、はっきりさせよう。
それで拒まれたら、すっぱり諦めよう。

そんなことを思っていたからガラにもなく緊張もしてたんだろう。
やたらと表情や声が強張ったのもそのせいだ。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ