初恋にまつわる5題

□これが、恋?
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微かな振動にふらふらと上体を揺らして危なっかしげにうたた寝をしている。
駅に止まる時のブレーキで大きく体が動き隣の人に寄りかかりそうになる。慌てて目を開け座りなおすが薄く覚醒した意識は数秒もすれば心地よい眠りへと落ちていって。

『ものっすごい寝てる…』


同じ地下鉄の沿線沿いだということは知っていた。うちの学校からこちらの方へ来る人は少ないしなんてったって彼女は目立つ。一度見たら忘れられない印象に残る美人だった。

真っ白な肌に長い黒髪、桃色の唇。女の子らしさをすべて集めたような完璧なお姫様スタイル。
繊細な睫毛に縁取られた切れ長の大きな目は蒼い光を宿していて。
ぷっくりとした小さなくちを開けば。

「てめぇ…何こっちじろじろ見てやがる。しめるぞ」

聞くに堪えない罵詈雑言しか出てこない。何故だ!!何故こんな性格になってしまった!?僕のときめきを返せッ!!!!

「一人でコント始めるな。キモい上に面白くないんだよ」
特技が言葉の暴力の神田ユウ(18)は僕の心をこれでもかというくらい虐待をして席を立った。もう彼女の降りる駅付近らしい。

やられたらやりかえせ。できたら倍返し。
これが僕が人生で学んだ教訓だ。

「神田…いくらライティングの時間にshineを死ねって読んでクラス中に笑われたからって僕に八つ当たりしないで下さい」
「なッ…てめぇなんでそれを知ってる!?」
「僕じゃなくても全校生徒知ってると思いますよ。あなたの悲しい成績事情は」
「ふざけんなこの若白髪ッ!!!!」
「生まれつきだっていってるでしょうお馬鹿さんッ!!」


プシューーーー


いつの間にか扉は閉まり発車していた。



「てめッ降り損ねたじゃねぇかよ!!どうしてくれんだッ!!」
「しりませんよそんなことッ」

環状線だから気長に乗ってればまた駅に着く。気長に一時間くらい。

どっかりと席に腰をおろして舌打ちをする。あぁぁ気になる!!

「駄目ですよ女の子が舌打ちなんてしちゃあ!!」
「うるせ。じゃあお前が女になれ」
「僕はれっきとした男です目の神経大丈夫ですか?」
「なんでお前そんなにムカつくんだろうな」

信じられない、という風に首をふる神田。僕だってこんなに情緒を解さない人に説教したくありませんよ!!でも目につくんです。めちゃめちゃ気になって口に出さずにはいられないんですッ!!って僕は小姑かぁぁぁ!!

「お前コントやめろって。マジキモいから。耐えられないから」

神田にまでドン引きされるなんて僕もだいぶやばいのだろう。

こんな風に騒ぎながらなんとなく毎日一緒に帰っているのは偶然の産物である。
たまたまこうなっただけ。僕はそうコメントするし、神田は舌打ちしかしないだろう。



他の感情があるなんて認めない。
そんな不祥事一切ない。
………たぶん。









これが、恋?
ぐるぐるまざってよくわからない!!
だれかきょうかいせんをおしえてくれ!!

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