初恋にまつわる5題

□初恋は叶わない、ジンクスさえも憎い
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何でこうなっちゃったんだ?


よく晴れた、欠伸のでるような平和な昼下がり。赤毛と白髪の少年二人は早朝からの鍛錬を終え、午後をそれぞれの自室で過ごすべく並んで歩いていた。

「そういえばラビ、任務ないんですか?結構ホームにいますよね」
「んー最近入ってこないんさぁ。暇さね」
「そんなことあのパッツンに聞かれたら斬られますよ。任務しろって」
「日本人は働き過ぎさぁ。ワーカーホリックって奴」
「言えてます。休暇を楽しんでないのがもろバレです」
ぎゃはは、と爆笑していると鈴を転がしたような綺麗な声。




「ちょっと、神田?」




ひえぇっと二人は縮み上がり防御の体制をとるが廊下にワーカーホリック日本人の姿はなく静寂に包まれていた。
困惑した声は談話室からだった。






「よっぽど疲れてるんですね…全然起きませんよ」
アレンが至近距離まで近づいてしげしげと眺めまわしてもピクリとも動かない。
リナリーの肩に顔を半分埋めて。
神田は寝息をたてていた。

「喉が渇いた、お茶が欲しいって言うからいれてあげたらちょっと飲んですぐ寝始めちゃったの。しょうがないわね」

微笑みながら上手にバランスをとって髪紐を解く。真っ黒な黒髪がふわりと舞い降りてほのかに石鹸のにおいが漂う。

「しかし…あれですね…寝てると……ますますねぇ…」
「あははは、女の子みたい?」

ずばりと核心を突く少女。流石、わかってる。

「でも神田は男の子なんだよねぇ…ほんと、人類の神秘だよ」

背は高いが色白で細い腰。手荒に扱ったら折れてしまいそう、なんて表現が冗談じゃなく似合う。
極めつけはあの女顔。どっからどうみても強気な美女、って感じだ。神田が男なら、全世界の女性の大半も男に分類しなければいけない。


「神田、重い。どいて。寝るなら自分の部屋で寝てよ」

うぅ、と小さく唸っただけで再び規則正しい寝息。起きる気は全くないらしい。


「もう!!昔っから神田は一度寝るとなかなか起きないんだよね。手がかかるんだから」
言葉とは裏腹に揺さぶる手つきは優しい。目を覚ますまで付き合うつもりなのだろう。
妙に可愛い神田の寝顔を見ながら暇人二人組みは人類の神秘とはこういうことか、と考えていた。



「アレンってユウのこと、可愛いなぁとか思ったりするわけ?」

談話室を出て歩く。結局神田は眠り続けてまだ少女に体を預けたままだ。

「そりゃあ思いますよ。性格がちょっと残念過ぎですけどね」

ラビは?と返す口調は軽いけれど目に少なからず本気の色がある。正直に答えることにする。

「俺もあるさ。あの顔だもんな」
「ふーん…やっぱりそうですか」

別れ道に差し掛かる。右に行けばラビで左に進めばアレンの部屋。じゃあ、といつもどうりの笑顔を俺は作れていただろうか。




「やっぱりって…薄々感づいてたってことだよなぁ…」





元凶はユウなんだ。男の癖にルール規定外の容姿をしているから。
俺は男でユウも男。この平和な関係に異議でも唱えたくなる。リナリーにこれほどの敗北感を感じたのは初めてだった。

性別なんて関係ない、とかユウだから好きなんだなんてとても言えないし言う気もない。そんな頭が沸いてる奴じゃないし。


ただこの大変重大な過ちについて苛々するだけだ。
報われない苛立ちに望みのない願い。こんなことに俺の大事な青春費やしちゃっていいのかな。





あぁ!!役立たずの全能の神!!
こんな初歩的なミスを犯すなんて!!

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