初恋にまつわる5題

□初恋が最後の恋
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なんて混沌として汚れた美しい世界!!



自分の最初の記憶ってなんだろう。
人間はいつまで記憶が持つのだろう。

俺の始まり、記憶の先はまだ『ブックマン』という存在を知らなかった所から。幸か不幸か鮮明に思い出せる静かに暮らしていた頃。

『ブックマン』を知った。それを人生にしようと決めた。故郷を捨てた。

世界を放浪するのはとても刺激的で楽しかった。想像もつかない興味深い文化、色とりどりの衣装や仰天するような食べ物。飽きることなんてなかった。


結構長い間各地を回った。十年以上くらいかな。あんまりにもたくさん行ったから何カ国とか、もう覚えていない。



初めてしばらく定住することが決まった。
世界は危機に瀕しているらしい。数少ないエクソシストとやらに俺とじじいは該当するんだって。
まぁたまたまこっち側につくだけなんだけど。なんでこっちかは俺も知らない。

黒の教団、今じゃ愛着さえ感じてる、俺たちのホームだ。
来た当初はただの陰気臭い場所だったんだけどね。住めば都。


さて、俺はここでとても大切な人と出会いました。短い18年間の人生のなか半分、いや三分の二を占めるくらい大切な人。

ユウ。この響きがたまらなく好きだった。優しくて、凛としてて…。本人に言ったら一蹴されるだろうけどこれ以上綺麗な名前は世界中探したってどこにもないって思う。

姿も綺麗な人で華があった。上手く言えないけど…とにかくすっごい美人なんさ。それに心も澄んでた。


だけど自分の殻を作って他人を入らせまいとするユウと仲間になるフリをしてる俺が上手くいくはずもなかった。ものすごい喧嘩を何回も繰り返して、俺たちはお互いの弱さを知った。


先に気持ちを打ち明けたのは俺の方。ずっといがみあっていた相手から告白されてユウは戸惑ったみたいだけど…そこは俺の粘り勝ちで初恋を見事実らせたって訳。


そこからは教団公認のカップルとして出来る限り一緒にいた。

気持ちのすれ違いや愛と欲のバランスで悩んだり、ほんと盛りだくさんな数年間だったけど、楽しくて幸せに溢れていた時間だった。




以上、回想終了。俺の記憶の全て、出たと思う。




さぁ、現実。
今、俺の目の前には濃い藍色の瞳からとめどなく涙を流しているユウがいる。

涙が真珠みたいで綺麗、だなんて考えてる俺はだいぶ頭がイってしまっているのだろうか。
でもそんな自分も嫌いじゃなかったりする。
ユウはいつでも綺麗だよ。泣いてまぶたが腫れたってユウが誰よりも一番綺麗だ。だけど笑顔がみたいな。


「こんな時に何言ってやがる、クソ兎…!!」

「えへ…未来の旦那様に…クソ兎は…ない…んじゃない…?」
「なってみせろよ!!そんなこと言う暇があるなら、未来まで生きてみせろ!!お前男だろッ!!!!」
「ごめんユウ…今回は…無理かも…」


任務中の俺の不注意。どうしようもない大怪我。ごめんね。ユウは謝るくらいなら最初から気をつけろって怒鳴りそうだけど。


「ゆ…向こうで待っててもイイ…?」

身体が急速に重くなって寒さを感じる。視界が霞がかって暗くなって、大好きな君の顔がよく見えない。
死ぬってこういうことなんだ。


「ラビッ…一人にしないって言ったのに!!お前は約束を破るんだな!!」

真珠がぽろぽろ落ちてくる。俺のいなくなった後、どうかこれからの彼女が笑顔でありますように。
だけど今伝えたいのは唯ひとつ。

「ゆうだけ…を…愛してる…」

「……!!!!向こうで浮気したら許さねぇからなッ!!俺がいくまで待ってろ!!」

そう言って笑ってくれたユウは最高に綺麗だった。





短い生涯と人は哀れむかもしれない。
同情や憐憫の対象となるかもしれない。

だけど俺は全然そんな風に思ってないから。
初恋が最後の恋。
これ以上素敵なことって、ないんじゃない?





ユウに出会えてとっても嬉しいよ。

またいつか、必ず会おう。

END
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