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□AT LAST
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空が黒い。
私は迷わず行けるだろうか。
ひとりぼっち。孤独。よるべない人。
その時の状況を表す言葉はいっぱいあったけど私にはどうでもよかった。そんなことは関係ない。生きるのに独りか連れがいるかは問題じゃないし独りだからといって同情なんてしない世の中だったから。
生きていくのに必要なのは強さ。
それだけ。
強くなる為に私が俺になった。言葉使いが荒くなった。男と喧嘩しても勝てた。剣術が上達した。
変わらなかったのは髪の長さと脳裏に響く姿は忘れた母の声。
あなたには運命が二つある――
意味がわからないけど直感的に私はこの言葉を一生覚えているだろうと思った。
いつも焦っていた。ここじゃないここじゃない!!私が目指している場所は、還るべき所は、存在する地点はここじゃない!!
日本を旅して廻った。探していた。
その頃日本では化物がよく出没するようになっていた。化物は退治する方法などなくて人がたくさん死んだ。酷い殺され方だった。
私には秘密があった。
私は化物を退治することができた。そして何故か化物は無抵抗だった。
しかしそれをすると私が大変だった。爽快感と不快感が混ざりあって苦しいのだ。だから偶然遭遇しない限り無理に退治はしなかった。
秘密は秘密のままにはならない。噂が広まり怪しげな黒い服を着た奴等が訪ねてきた。
「黒の教団」と奴等は名のった。
わかってしまった。向かうべき地が。
だけど自分の半分は抵抗している。行くな、と警告を繰り返す。なんだこの感じ…。
禁を犯して国を出た。言葉が違うのには多少参ったが数年すれば慣れた。エクソシストの危険な任務は性にあっていたし、何より
独りではなかった。
自分は仲間を求めていたんだとようやく気づいた。なんだかんだ言って話しかけてくれる同世代のエクソシストはいい奴等だし希望をくれた。
でもまた警告が鳴り響く。あまり馴れ合うな―もう片方はどうする?
「もう片方」って一体なんなんだ…!!
「最近ユウ悩んでるさ?」
任務先へ向かう汽車の中。ぼんやり考えを巡らせていた俺に同い年のラビが聞いてきた。
こいつ妙に勘がいいからな…悟られないように表情を変えずに答える。
「そんなことねぇ」
「ユウちゃん嘘つく時は目を泳がせちゃダメさ」
激しくムカつく…!!昔からこいつは俺のことなんかお見通しで、しかもやたらとベタベタしてきた。
「何か悩んでるなら話して欲しいさ…ユウが心配だし、大切にしたいもん」
最後の一言がひっかかる。
「何が言いたい」
「要するに」
急に腕を引かれ抱きしめられる。
「ユウが好きってコト」
顔が真っ赤なのが自分でもわかる。いきなりそうゆうことを言うなッ!!どうしたらいいかわからねぇよ…!!
突然ガタンッと音をたて汽車が止まる。明らかに何か起こったのだ。
ぱっと離れて身構える。戦場では一瞬の隙が命とりになる。
入ってきたのは人間ではないような…変な奴だった。
「千年公ッ…!!」ラビが青ざめて叫ぶ。
こいつが…俺達の敵?
なんで…こんな…こんなに
「迎えに来ましタ、神田ユウV」
ナツカシイキモチニナルノダロウ
「ユウになんの用さ!!」
「ちょっと黙ってて下さイ、ブックマンVV」
言うなりラビは吹っ飛ばされた。
「ラビッ」
「探しましたヨV全くあなたが誘拐なんてされてるからなかなか手が出せなかったじゃないですカV」
「誘、拐…?」
「黒の教団に行くんだからあなたも変わったノアですよネVV」
運命が二つある―それは、つまり、
「あなたはエクソシストでありノアでもあるのでスV」
いつも半分は抵抗していた。
相反する物がひとつの体に宿っていたから。
「行きましょウVVみんな待ってまスV」
そして、
俺はその手を払い退けることができない。