Text

□鳥籠の小鳥は鳴かない
1ページ/1ページ

あの時は久しぶりのリナリーとの任務だった。やっぱり女同士気が楽で現地に着くまでかなり喋ったし、はしゃいでいたと今となっては思う。


だけど油断はしていなかった。だからそこはわかって欲しい。ただでさえ自分を責めるところがあるリナリーにこれ以上嘆いて欲しくない。

任務は結構順調に進んでいた。AKUMAは多かったしレベル3も数体いたけれど俺達だって鍛錬を重ねて日々強くなっている。戦況はこちらに有利だったんだ。



断崖絶壁の海岸が戦場だった。足場は悪いけど人や建物は周りになくて思いきり力が出せた。お互いの邪魔にならないよう少し離れて戦っていたリナリーの姿が、
突然、霞んだ。
「何…!?」
視界が歪む。身体が重い。息が上がる。

何かおかしい…!!

「ようやく効いてきたか…お前頑丈だなぁ。普通の人間なら5分弱で倒れるのにお前15分かかってるぞ」


目の前にいる最後の一体となったAKUMAがニヤリと笑う。


「俺の能力は『感覚操作』お前の身体の感覚を狂わせることが出来る」

AKUMAが話す間にもどんどん力がはいらなくなってゆく。まずい、このままでは抵抗もできずに無様に殺される…!!


「お前は殺さねぇよ」

突然意味不明の発言をするAKUMA。
「本当は今すぐ頭を割って脳味噌をそこらじゅうに撒き散らしてやりたい…だがノア様からの命令だからな」


「お前を無傷で捕らえろとさ」



今リナリーが相手をしていた最後のAKUMAの頭部を霧風で仕留め、破壊した。

しかし…こいつには近寄るだけで動けなくなる。
エクソシストは貴重だ。二人で共倒れになるよりは、一人で、

「リナリーッ!!」
「…神田ッ!!」

AKUMAの前で力なく膝をつく俺を見て焦ったのだろう、ダークブーツを発動させてこちらへ向かってくる。

頃合いを見計らってリナリーとAKUMAの間に走りこむ。

驚いたリナリーが速度を落とす。その腹に拳を入れる。

「あ…ぐっ…神田…ッ!?」
「すまない…お前だけでも…」

そのまま反動を使って海へ落とす。気を失っているからパニックに陥って溺れることはないはずだ。


「おいおい、あんまり動くと」


ゆっくりとリナリーが落ちていく。


「倒れるぜ?」



いつの間にか俺の意識は途切れていた。





目を開けると大きな天蓋。
さらさらと肌触りのよいシーツ。
自分は知らない屋敷のキングサイズのベッドに寝かされていた。
ご丁寧にネグリジェまで着せられて。


たぶんノアの本拠地へ連れて行かれたのだろう。何が目的かわからないが六幻がないことにはさしたる抵抗も出来ない。


「え…あッ」
いきなり押し倒される。人の気配なんて全然感じなかったッ…!!


「近くで見るとますます綺麗だねぇ」

覆い被さっているのは自分より小さな少女なのにとても力が強い。振りほどけない。



「素敵なもの手に入れちゃった…。僕と遊ぼ?ユウのこと、気に入ったよぉ」

何言ってやがる、こいつッ…!!

「ふざけんなッ!!離せッ!!俺の上からどけッ!!!!んっ…!!」


唐突な口付け。少女の唇が自分のと合わさり、舌が巧みに口内へと侵入して絡められる。




「ゃあっ…」
「ん〜反応は可愛いんだけどねぇ。ちょっと口が悪すぎるかなぁ。黙ってて、くれる…?」






「綺麗なものって心が洗われるっていうか、気持ちがいいと思わない〜?」
艶やかな黒髪をくしけずりながらその手触りにうっとりとする。


「でもねぇユウは綺麗なものの中でも一番輝いてるよぉ〜」
返事は、ない。




「ただいまー。おっ、またロードは人形遊びしてんのか?全くすげぇ趣味だよな」
「お帰りティッキー♪今回の子はすごいよぉ♪♪」


黒いレースに縁取られたライラック色のドレスを纏った『人形』が椅子に座っていた。


「今回は最高級品って感じだな…。ね、ちょっと俺に貸してくんない?」
「ティッキーやらしいことするつもりでしょ〜?駄目だよぉ。こんなに綺麗な人形、滅多にいないんだもん。貸せな〜い」
「そこをなんとか!!少しだけ!!」





靄がかかったようなぼやけた意識で声が聞こえる。
信じて。いつか必ず迎えに行く。

私は待っている。自分は鳥籠に捕らわれてしまったけれど光は届くだろう。

貴方を信じる。貴方が鍵を開けて私を抱きしめてくれるその日まで。


貴方のことを想い続ける。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ