ゲーム系SS

□Magi Knight
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 ロンドンにあるそれと比べても遜色の無い塔。
 その大きな塔が司る学び舎がミスカトニック大学だ。
 これから数週間、士郎と凛はミスカトニックの考古学部の生徒として過ごすこととなる。
 ミスカトニックは魔術学科を考古学科として世間から隠匿しているのだ。
 倫敦の時計塔…魔術学校に通っていた凛に交換留学の話が来たのは、1ヶ月前。
 それほど仲が良いとは言えない二つの組織の、交流の為の交換留学。
 見栄もあり、そして歴史も古い倫敦の時計塔としては、その辺の適当な魔術師を送るわけにはいかなかった。
 第二の時計塔と呼ばれているミスカトニック大学に、弱みを見せるわけにはいかないと言う理由もある。
 凛が選ばれた理由は、彼女がロンドンの代表として出ても恥ずかしくない程度に優秀だった事と、アーカムを統括している財閥の総帥と同じ日本人だからだ。

 そして凛は、弟子として側に置いている士郎と、使い魔であるセイバーを連れてアメリカにやってきたのだった。


 ミスカトニックの最初の授業。
 教師は新入りである2人の…主に主賓である凛の能力を確かめる為に簡単な質問をし、ある程度質問のグレードを上げていった後に授業に入った。
 凛の回答は、教師の気に入るところだったらしい。
 彼女は優等生の役を演じきり、士郎は邪魔にならないように振舞った。
 倫敦の時計塔で教えられる術形態とはまた違った術式が語られ、時計塔とはまた違った見解が語られる。
 魔術師が目指して止まない『  』。
 倫敦の…否、協会の魔術師が子から孫へ魔術の業を受け継がせることで到達しようというのに対し、ミスカトニックは、あくまで自身を押し上げることによって、そこに到達しようという。
 その考え自体は、親から、そして先祖から魔術刻印という業を受け継いできた凛には相容れない思想だったが、別の視点から見た術式の解釈などにはとても興味が湧いた。
 ロンドンにいては、決して気付かなかったであろう視点の話に凛は聞き入る。
 しかし、士郎は別だった。
 士郎は、たった1つの魔術しか使えない。
 その魔術を劣化させて、いくつかの技は使えるが、結局はその魔術の劣化でしかない。
 倫敦の授業もミスカトニックの授業も、知識量は増えるが、それは自分の魔術には結びついてはくれない。
 もちろん、知らないより知っていた方が何かと有利になるので、それなりに真剣に聞いてはいるが、あくまでもそれなりだ。
 寧ろ授業の内容より、初めての教室の方が彼の興味を誘った。
 目立たないように視線を動かし、教室を観察する。
 部屋は扇型、すり鉢状になっていて、角であり一番深いところが教卓、扇の広い方に高くなっている階段状の席に生徒は座る。
 凛と士郎は初めてということもあり、やる気があるところを見せるために教卓正面の真ん中の列に陣取っていた。
(え…………?)
 目が合った。
 扇の端の凛と士郎と同じ列に座っている青年、彼は士郎を見ていたのだ。
 凛ではなく、ただの付き添いの弟子という立場として紹介された士郎を。
 黒のハイカットの服の上に白いシャツを着た、黒の長めの髪に紺の瞳の、整った顔立ちの東洋人。
 年齢は、自分達より少し上、と士郎はあたりをつけた。
(……誰だろう……)
 その士郎の疑問はすぐに氷解された。
 青年の余所見に気付いた教師が叱咤の声を上げたからだ。
「大十字九郎!! 授業中だぞ、余所見をせずに集中しろ」
 その声に、大十字と呼ばれた青年は返事をし、教師の方に顔を向けた。

「だいじゅうじ…くろう……」

 士郎は口の中で小さく呟く。
 授業より、ずっと気になる存在であった。
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