ゲーム系SS

□Restart
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「まあいいわ。それでアンタ、何処の英霊なのよ?」


 そう私のマスターは私に問いかけ、私はその問いに覚えていないと返答した。
 記憶に混乱が見られる、と。
 それは事実だ。
 しかし、真実ではない。
 私の記憶の混乱は、我がマスターの不手際ではない。
 それは、忘れていた記憶まで掘り起こされたが故の混乱だった。
 総てを覚えているわけではないし、総てを思い出したわけでもない。
 彼女の名前も、その一つ。
 確かに大切な名前だった筈なのに、虫食いだらけの記憶に埋没してしまっている。
 今言えるのは、マスターにすら、否、彼女がマスターだからこそ自身の真名を明かしてはいけないという事。
 袖を振るうと、手の中に滑り込む冷たい感触。
 飾り気の少ない、紅い宝石の付いたネックレス。
 かつては力に溢れていただろう宝石は今では空っぽで、ただの高価なアクセサリーと化している。
 マスターが気付かずに、私の召喚の為に使用した魔法具の成れの果て。

 私はネックレスを胸に抱き、すべき事を確認する。

 "私"は"俺"を殺害する。

 ようやく巡ってきたチャンス、これを逃す手は無い。
 この宝石を彼女に返せる日まで後数日。
 この戦争が終わるまでさらに数日。
 それだけあれば、素人同然の"俺"を殺すのはそう大した仕事ではないだろう。
 例え、"俺"が最強のサーヴァントに守護されているとしても。
 殺して掃除するのは自分の仕事だ。

 私はネックッレスをしまい、周囲を見渡す。

 そこは半壊したリビング。
 私を召喚したマスターの不手際が起こした惨事だ。
 確かに記憶の混乱は彼女のせいではなかったが、こちらは完璧に完全に完膚なきまでに彼女の不手際だ。

 おそらく。
 きっと。

 そして私は、ここの片付けを命じられてここに立っている。
 取りあえず、調度品を何とかなりそうな物と、どうにもならなそうな物に分け、ゴミと瓦礫を分別して捨てた後、床を綺麗に掃く。

 ━━同調、開始(トレース オン)

 どうにかなりそうな物は魔力を通して強化し、

 ━━投影、開始(トレース オン)

 どうにもならなそうな物は複製品を創り出す。
 剣以外の投影は結構魔力を喰うので、マスターの魔力を大分削ってしまった。
 明日は満足に動けないかもしれないが、まぁ構うまい。
 サーヴァントを召喚したばかりのマスターは満足に活動できないと言っておいたから、勝手に勘違いしてくれるだろう。
 元の姿を取り戻したリビングは、私の納得のいく仕上がりだ。
 召喚された瞬間にリビングは破壊されてしまったから相違点もあるかもしれなかったが、かつての記憶には完全に合致してくれた。
 私は、真っ二つから見事再生を果たしたソファに寝そべる。
 目が覚めたなら紅茶を淹れよう。
 人間の引き起こした破壊の後片付けばかりさせられていたから、こんな機会は久しぶり。
 彼女なら良い茶葉を持っていることだろう。

 そして紅茶を飲み終わったら。

 ━━同調・投影、完了(トレース オフ)


 さぁ。

 もう一度聖杯戦争を始めよう。


***** *END* *****

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