ゲーム系SS
□サーチ&デストロイ
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そこに集った者達は、皆一様に表情に緊張を浮かべていた。
「…どう?いるの?」
自身の獲物である弓に矢をつがえてゆかりは問う。
「います。それも…複数です…っ」
答えるのは、探知専門である風花。
声が妙にくぐもって聞こえるのは、彼女が自身のペルソナのスカート状ドームに入っているせいだ。
荒事に向いている男衆は今はいない。
今回の作戦から意図して外したのだ。
こういう時はいて欲しくはあるが、本来の目的には不適合だった為に。
今回は指揮を普段執っているコウではなく、美鶴が執っているのもそういう訳だ。
――かさっ
「左です!!」
風花が叫ぶと、美鶴はためらいなく銃口を自身のこめかみに突きつけた。
「ブフ!」
放たれる言葉と同時に引き金は引かれ、青白い光が弾けてペルソナが具現化する。
美鶴のペルソナは彼女が望んだ通りに冷気を放って霧散するが、効果は無かったらしく、対象はなお素早い動きを続ける。
「これならどう!?」
歯噛みする美鶴の横をすり抜け、ゆかりが前に飛び出し、矢を放つ。
矢は凄まじいスピードで対象に向かうが、対象の動きは更に速かった。
「くっ…あいつ、速い!」
「連射!」
続いてアイギスも銃を放つが、対象の周囲に穴が空くだけだ。
業を煮やしたゆかりが召還機を自身の眉間に突きつける。
「マハガル!」
言葉と同時に引かれる引き金。
青きマズルフラッシュ。
ゆかりのペルソナが巻き起こした暴風が、隠れていた敵まで一遍に、彼らの軽い体をひっくり返した。
「敵、体勢を崩しました!」
風花の声と共に、場に緊張が走る。
「敵は総崩れだ!一掃する!」
美鶴の上げた声を合図に風花以外の面々が飛び出し、全力攻撃を仕掛ける。
土煙が舞い、怒声が飛び交い…
それが晴れた時、彼女達以外に動くものは無くなっていた。
「敵反応、消失!お疲れさまでした!!」
風花が勝利を告げ、ようやく全員がホッとしたように息を吐く。
スッキリした笑顔でゆかりが親指を立ててみせた。
「……お…終わったっスか……?」
静まり返った階上に注意を向け、震えながら順平は呟いた。
「そのようだな」
こちらもやはり震えながら明彦が答える。
「女って怖い…」
「ゴキブリ相手に完全武装…」
二人は青い顔で見えない階上を窺うと、平然とソファで雑誌をめくりながらイヤホンで音楽を聴いているもう一人に視線を向けた。
「お前、よく平気だなぁ…あの破壊音聞いて何とも思わんの?」
順平に問われ、コウはイヤホンを外した。
「これで参ってたら身が持たないよ。どうせ後数回は同じ事繰り返すんだし」
その言葉に絶句した二人に構わずコウは続ける。
「今ので、きっとその部屋は使えなくなった。目的はアイギスの部屋の用意なのにね…… きっと、繰り返すよ。マトモな部屋が用意出来るまで」
その言葉を証明するように、悲鳴と怒声、そして破壊音が聞こえてきた。
振動と共にパラパラと埃が降ってくる。
コウは身を寄せあって震える二人をよそに、再びイヤホンを装着した。
流れるアップテンポの明るい曲が、彼と外界を隔ててくれる。
彼は雑誌のページをめくった。
どうせ、この調子ではタルタロス行きは無理だろう。
今日はとことんだらけて普段の疲労を取ろうと彼は決心していた。
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