書籍系SS

□救いの日は
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 9986番目の少女を殺害し、9986次絶対能力進化実験を終えた一方通行は、寮への帰りにコンビニに寄った。
 気に入りの缶コーヒーをまとめ買いする。
 その銘柄の缶コーヒーを毎日飲み続けてすでに一週間。
 そろそろ新しく気に入るものを模索すべきか。
 そんな事を考えながら歩いていると、十字路で曲がって来た誰かとぶつかったらしい。
 らしい、というのは、一方通行に衝撃がこなかったから。
 あらゆるモノの方向(ベクトル)を変える彼は、普段は酸素や重力などの"生きるために必要なモノ"以外を反射するように能力を設定しているために、ぶつかった衝撃は総て相手に向かったのだ。
 反射により、ぶつかった以上の衝撃を受けた相手は地面に尻餅をついていた。
 どうやら相手は女の子で、柔らかな色の茶髪で、学園都市内では有名な女子中学校の制服を着ていて。

 もっと言えば、先程一方通行が殺した少女だった。

「ああ、ここにいましたか、とミサカは目的の相手を見つけたことに胸を撫で下ろします。ついでぶつかったことに謝罪の言葉を口にしました」
 無表情でそんなことを口にして、殺された少女が立ち上がる。
「"樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)"での天気予報で、明日は雨だとでました、とミサカは報告します。明日2000時に予定されていました9987次絶対能力進化実験は戦場と戦闘方法の都合上、天候は晴れが望ましく、実験は本日の2000時に変更になりました、とミサカは業務連絡を伝え終わります」
 ミサカを名乗った少女は、言うだけ言うと一方通行に背を向けた。
「お前、何番だ?」
 立ち去ろうとするミサカに一方通行が声をかけると、彼女は一度振り返り答えを告げると、後は振り返る事なく歩いて行った。

「ミサカは9987番ですが、それが何ですか、とミサカは問い掛けます。…答えはないようですね、それでは夜までに体調を整えておいてくださいね、とミサカは別れの言葉を口にしました」

 それが9987番目の彼女の回答。
 一方通行に9987番目に殺されるお人形。
 兵器の試作品として生み出されたにも関わらず、兵器として生きる事も許されず。
 自分が殺される実験が早まった事を自分を虐殺する人間に伝えに来る少女。

「否定、しろよ」

 少女が見えなくなった後、ポツリと一方通行は呟いた。
 そんな自分を、彼は自覚していない。
 胸のモヤモヤや、イラツキを、少年は気付かない。

 ━━振りを、する。

「現実を認識しろ、我慢するな泣き叫べ、命乞いしろってンだ」

 そうすれば、と誰にも聞こえない程の小さな声で一方通行は呟く。

 その声は、発した彼自身にも聴く事は出来ず、また認識もされることもなかった。
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