書籍系SS
□幸運の石
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その少年は、あたしから見ても不幸に見えた。
とある少女は、とある少年のことが嫌いだった。
なぜなら、彼女は不幸や不運を言い訳に、怠惰に怠けて軽く人生を送る人間が大嫌いだからだ。
だから、吹寄制利は上条当麻の事が嫌いだった。
もうすぐ夏休み。
制利は部屋で一人テレビを見ていた。
その目は、真剣そのもの。
彼女の手にはメモ帳とペンが握られ、もたれかかったソファの傍には電話機が置かれている。
彼女の見ているのは、テレビジョンショッピング。
毎週同じ時間に放映される通販番組だった。
『……健康には大豆イソフラボンです。これはそれを効果的に摂取できる……』
「………この番組って、何にでも大豆イソフラボンって言うわね……コンビニで売ってる大豆サイダーでも十分かしら?」
これはバツ、と制利は呟く。
『次の商品はコチラ……"幸運を呼ぶ石"、ミラクルストーンです!!』
そのタレントの台詞と同時に、タレントの顔をアップで映していたテレビが虹色の石の画面に切り替わる。
その映像に制利は苦い表情を浮かべた。
通販番組が好きで欠かさずチェックし、健康グッズやらアイディア調理器具などは結構試したりしている彼女だが、厄除けや招運アイテムなどはあまり好きではない。
それがその日最後の商品という事もあって、テレビを消そうとチャンネルに手を伸ばした彼女だったが、テレビから流れたその音声を聞き、その手が止まった。
『コレを身に着けるようになってから、何でも上手くいくんです。これまで何一つ為し得なかったのが嘘みたいに。前向きに生きられるようになりました!!』
その他にも"購入者の声"は続く。
『今まで諦めていた人生を、楽しく生きられるようになりました』
『この石を購入してからというもの……━━』
気がつくと、彼女の手はメモ帳に商品名を記入し、次いで電話機に手を伸ばして、短縮に登録された番号をプッシュしていた。
『お電話、ありがとうございます! こちら、テレビジョンショッピングです』
数コールの後、柔らかな女性の声が受話器から聞こえた。
数日後、手元には附属の小さな巾着に入れることの出来る石が、あの日頼んだ他の品物と一緒に届いた。
石は光にかざすと虹色に輝いて見える。
天然モノではもちろん無いようだったが、それが何で出来ているのは彼女には分からない。
「明後日から夏休み、か」
キラキラと虹色の光を浴びながら制利は呟いた。
彼女は自分の為に石を頼んだわけではない。
不幸や不運なんて信じない彼女の目から見ても不幸に見える彼に渡すため。
それを遂行するには、明日の終了式しかないだろう。
それを逃すと、渡すのは夏休みの終わった後になってしまう。
そうなってしまうと、きっとずるずると延ばし延ばしになって渡せなくなるだろう自分を、制利は自覚していた。
その理由に気付かないまま。