*sHoRt*

□ジンの子育て。4
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はくすおれいしゃん。1/3


「ちょ、ちょっと……兄貴?」
「じ……ジン?」

「大人2枚、子供1枚、で3800円です」
その言葉に無言でお金を払う大きな黒い人。ジン。
「12時50分、4番スクリーンになります。10分前から入場開始ですので……」
引き攣った笑顔でマニュアル通りの対応をするお姉さんに一瞥もくれないで
ジンはチケットとチラシを握って歩き出した。
抱っこされているあたしはジンの手に握られているチケットを見る。
そこには確かに……

『劇場版ボケっとモンスター幻のボケモン ベンモット爆誕』

と書かれていた。
(ジンの観たい映画って……ボケモン!?)
ボケモンとは今、全世界で一番有名だと言っても過言ではないほど大人気のアニメーションだった。
その名の通り、どこか抜けた感じのモンスターたちの
ほのぼのとした日常が本格的CGでもって描かれているというところが人気だった。
「あ、兄貴!?正気ですかぃ?」
そうウォッカが聞きたくなるのもわかる。
なぜなら、今日は平日で、しかも二人は仕事着だからだ。
仕事着……つまりあの黒ずくめということだ。
「ウォッカ……お前はさっきから何に怯えている?」
「な、何にですかぃ?!」
何に、ってそりゃあんたに決まってるでしょ。
あたしは冷やかな視線を送る。
こんな平日の真昼間にただでさえ目立つ黒ずくめの男どもが、
こんな可愛い、可愛い女の子連れてるってだけでもっと目立つというのに、
よりによって選んだ映画が『ボクットモンスター』なのだから。
もう笑うしかないだろう。その通り、ウォッカは変な笑い方で笑い始めた。
「……もっと違うの見ません?」
控え目にそう言いたくなるのもわかる。
大の大人が二人も揃ってボケモンだなんて。
普通の大人ならまだいい。
強面の大人、二人だ。
そんなの変を通り越して怖い。
「じん、観たいの?」
あたしも説得にかかる。
「……よく聞け」
低い声でそう言ったジンはちょっとかっこいいのに。
「ボケモンをなめるんじゃねぇよ……まぁ、それも仕方ねぇ……。あいつらはテレビではどっかのご隠居みてぇに同じようなパターン。
 同じような展開で終わるからそう思うんだ……。だが、いいか?」
何がいいのかよくわからないけれど、ジンの力説は続く。
「一度、劇場版となれば、話は変わる。あいつらは豹変しやがる……。
 それはまるで教科書のようにためになることばかりを含んでいやがる……」
「……」
「……」
そこまで語られればもう言うこともない。



……というか、否定するのさえ面倒くさい。







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