■メモ小説1■
□ネクタイ
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「望…?話してくれないか?」
手を縛られて頭をなでてやることもできない。
命はなるべく優しく望に聞いた。
望は上半身を起こすと机を指さした。
「…命兄さん、あれは何ですか?」
頭を少し浮かせて机を見る。
別にいつもとかわらない。カルテや医学書、それからペン、聴診器と―…。
口紅。
「あ。」
命が少し困った顔をした。
「あれは…」
「看護婦さんのものでしょう。」
命の言葉を遮って望が続ける。
「さっきここに来た時、帰るところだった看護婦さんとすれ違いました。…真っ赤な顔をした看護婦さんとね。」
「それは…」
「おかしいなと思いながら診察室にはいったら…」
望は言い訳はさせませんよと言わんばかりに命を睨んだ。涙目で。
「命兄さんはなにやら口を拭いながらあの口紅を隅に隠そうとしたでしょう!」
命が顔を背けた。
身体が少し震えている。
「命兄さん!あの看護婦さんと何をしていたんですか!」