乙男

□頑張る君に
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数学のテストが泣きたくなるような結果だった。苦手だから仕方ないと言い訳できるレベルではなかった。
さすがにマズイと思った私は、幼なじみの正宗飛鳥に頭を下げて、勉強を教えてもらうという約束を取り付けることに成功した。

飛鳥も私が数学を苦手としているということを知っているため、快く承諾してくれた。持つべきものは、優しくて頭の良い幼なじみだ。
今日ほど飛鳥が幼なじみで良かったと強く思った日はない。



……さて、そういうことで今私は飛鳥の家にいる。
飛鳥は教科書を片手に、私に数学を分かりやすくかつ丁寧に教えてくれている。

おかげで、理解できていなかった問題が少しずつだが解けるようになってきた。
飛鳥は教師に向いているのではないかと思う。



「…よし、今日は終わりにするか」


一区切りついたところで、飛鳥が教科書を閉じながら言った。
丁度、集中力が切れかかっていたのでありがたい。


「うん、ありがとう」


飛鳥にお礼を言い、私は軽く伸びをした。
今までずっと机に向かっていて伸ばしていなかったせいか、腰や肩の関節がパキパキと鳴った。

飛鳥はその音を聞き、微かに笑いながら立ち上がった。


「待ってろ」


私の頭に軽く手を置き、飛鳥はキッチンへ向かっていった。
飛鳥がこういう時にキッチンへ行く理由を私は知っている。昔から、私が何かを頑張った時には必ずしてくれるのだ。
飛鳥は、とても優しい。

私は飛鳥の後ろ姿を見ながら、思わず微笑を浮かべていた。



数分後、カップを2つ持って飛鳥が戻ってきた。
甘い香りに、顔が弛む。


「頑張ったご褒美だ」


私の前にカップが置かれる。
そこに入っているのは、温かいココア。上には生クリームが乗っている。

私はこのココアが大好きだ。特に、飛鳥が作ってくれたものが。


「ありがとう!」


早速口をつけると、口内に甘さが広がっていく。疲れた時に飲むと、とても落ち着く。疲れが一気に飛んでいってしまうようだ。

飛鳥は幸せいっぱいの私を見て、微笑した。その表情はこのココアに負けず劣らず甘くて優しい。飛鳥のその表情も、大好きだ。
……本人には言えないけれど。


「明日も頑張れそうか?」

「うん!ココアのおかげで頑張れそう」

「そうか、良かった」


ココアと、その微笑みのおかげで、嫌いな数学でも楽しく学べる気がするよ。
……なんて、思わず口に出そうになった本音は、甘いココアと一緒に飲み込んでおいた。



END

2009 10 28

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