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□そして僕らは(完)
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「恭弥は、後悔してないのか?」
いつもと変わらない並中の屋上、錆びたフェンス。
その錆びたフェンスにディーノは寄り掛かりながら、校庭の野球部のざわめきがとぎれたその一瞬に問うてきた。
「後悔なんてもの、はなから持ち合わせてないよ」
そう、今更後悔してなんになるというのだ。
そう考えながら屋上で寝る体制を整えているとディーノが横に腰を降ろしてきた。
「お前をこっちの世界の住人にしたのは紛れも無くこの俺なんだ…。」
「…だから?」
きっとディーノは悔やんでいるんだと思う。
僕を、危険な世界に導いてしまったことに。
だけどディーノが僕の家庭教師になった日から10年が経った。
「俺は、また…過去から来たお前達を鍛えなきゃならない…」
ディーノの瞳が、酷く哀しみに満ちている。
彼は元から優しいから。
「それでも、未来を変えられるんだよ」
ミルフィオーレファミリーに僕の、僕らの…僕とディーノの未来を壊されるなんて、そんなの、嫌だ。
「大丈夫だよディーノ」
今、彼にしてあげられることは励ましてあげることぐらいしかない。
「……恭弥…」
ディーノの手に手を重ねる。明日、僕は過去の自分と入れ代わる。そしたら暫く会えないし、この温もりも感じられなくなってしまう。
もしも過去の自分が失敗して、運命を変えられなかったら、ディーノとはもう、二度と…
嫌だよ、そんなの…ー
あの綺麗な髪にもう触れられない
暖かい眼差しを僕に向けられない
優しく撫でてもらえない
あの温もりに抱きしめてもらえない…ー
『恭弥』って呼んでもらえない…ー
そんなの、耐えられないよ…
寂しいよ……ー
「恭弥、寂しいよ…」
あぁ、貴方も同じだったの。
だって頬に一筋の水が流れてる。
それはきっとしょっぱい味だよ。
だって今僕も同じだからわかるの。
「暫く会えないけど、心は傍にいるって、約束するよ、恭弥。」
約束。
小指と小指を絡ませる。
「ディーノ、未来を、僕らの未来を頼むね…」
それは生きていくための、明日会えると信じられるための、約束。
後悔はしてない。
だって貴方に抱きしめてもらえるから。
貴方に会うことができたから。
こうして十年後には恋人になれているから。
だから、後悔はしてない。
だけど幸せな未来に、僕らの手で変えていかなきゃなんだ。
そして僕らは最後のキスをした。