main

□伝えたいから。(完)
1ページ/1ページ


「なぁ恭弥ー」

そう言って僕の髪の毛を撫でてくる。
僕だって誰彼構わず触らせてるわけじゃない。






ー伝えたいから。






「…やめろ」

僕にだって羞恥心くらいある。愛しい彼にこんなことされて照れない人などいるだろうか。

「なんだよ恭弥。…照れてんのかこいつ〜っ」

「かみ殺す」

素直になれないのは僕の性格上無理なこと。
だけどそれでもこんな僕と一緒にいてくれる。彼、ディーノは優しい人だと思う。だからこそ僕は惚れたのかもしれないけど。優しいだなんて言ってあげない。悔しいから。

「ていうか貴方はなんで此処に居るの?」

「ん?」

今僕らが居るのはいつもの応接室ではなく、並中の図書室。
そこで僕はある事を調べていて、傍らには本が山積みになり、手元には電子辞書がある状態だった。
いつもなら風紀委員の部下達に調べさせるとこだが、今回ばかりは部下にさえ知られたくないことだった。
そしてもっと知られたくない相手はディーノだった。

「だって恭弥がかまってくんないし、なんか調べてるみたいだから手伝おうと思って。」

…あと会いたかったし、と小さな声で言う彼に僕は益々紅くなる。
ずるいと思う。こうして僕は彼に溺れていくのだろう。そしていつか抜け出せなくなる。それでいいのだが。最近不安なんだ、彼は僕に溺れてくれてるのかわかんないから。

「俺に分かることならなんでも答えるぜ?で、何を調べてるんだ?」

そう言いながら抱き着いてくる。

…今は誰もいないのか。
ま、いいか…

了承したくはないから強いていえばの無視。苦肉の策だ。

今僕が調べているのはある一言について。
はっきり言って本人に聞くのは気が引ける。
だけどどの本にもその言語は載っていなかったし、生憎、電子辞書も使えない。…高かったのに。


でもまだ付き合ってからちゃんと言ってない。
だけどいつもいつもディーノは言ってくれる。




『好きだ』って。

『大好きだ』って。

『愛してる』って。




甘い、甘い、ふわふわな綿菓子のように口に入れたら溶けてしまうような甘いことば。

僕はその言葉で何度も何度も溶かされてきたのにふわふわした気持ちにしてもらってきたのに

僕はしてあげてない。




「イタリア語でさ…好きとか愛してるとかって何て言うのかなって思って」

「あー…それは

Ti amo

…だな」


『Ti amo』か…
なんだか結局本人から聞いちゃったな…

「で、なんでイタリア語なんかで調べてるんだ?」

「貴方、イタリア人でしょ」

「うん?そうだけどそれがどうかした?」

「…ディーノ、Ti amo」

「へ?…ぇ、え!?」

「…ッだから…分かってよもう…ッ!!貴方はイタリア人だからイタリア語で言おうと思っただけで…!!」

テンパっちゃって何言ってるのかわからない。
予想以上に恥ずかしかった。
一人で真っ赤になってると僕の大好きな暖かくて優しくて落ち着く甘いあの香が僕を包んだ。

「ディ…ノ…?」

ああ抱きしめられてるんだ。そう気付くまでそんなにかからなかった。

「恭弥、ありがとう。俺の国の言語必死に調べてくれたんだろ…?

すっげえ嬉しい。
大好きだ恭弥…」

僕の肩に顔を埋めているからブロンドの髪が頬にあたる。気持ち良いな。
このままずっと、このままでいれたらいいのに。

「ディーノは僕のこと好き?」

「すっげえ好き。じゃあ恭弥は俺のこと好き?」

「当たり前でしょ」

クスクスと笑う。どちらからともなく自然に軽いキスをする。
誰もいない空間に、僕と彼だけ。
僕色と彼色。
白、白、白、白
真っ白な空間に僕と貴方の色がふたつ。
例えば僕が蒼で貴方がこの空間そのものの白。
ふたつはひとつの色になる。貴方は僕色に染まって僕は貴方色に染まる。
空間そのものが僕と貴方だけ。それ以外なにもない。
蒼と白が混ざって空のような綺麗な空間になれたらいい。

それってとても素敵なことだから



僕らの未来に…ー
Ti amo


(ちゃんと伝えたいから)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ