駄文倉庫【D-1】
□花は短し、恋せよ男子 …裕次
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-留恋の章-
――俺は恋をしている。
だけどそれは、俺の心の奥底に、深く深く沈めなきゃいけない恋。
――だって彼女は、俺の妹。
父さんが再婚してできた、血のつながらない妹だから――
ある日突然俺の前に現れた少女に、俺は一瞬で恋に落ちた。
まっすぐで艶やかな黒髪と、黒檀のような瞳。
雪を映したように白い肌。
血色の良い、ふくよかな唇。
白魚のような手に、桜色の爪。
――日本人形のような女の子。
初めて見た時、本当に人形かと思った。
一目見た瞬間から、目を離せなくなった。
こんな可愛い子がいることが奇跡だと思った。
一目惚れ、だったんだ。
だけど――
彼女は、妹。
――俺は出会ってすぐに失恋した――
・・・・・・・・・
好きな彼女は『妹』になった。
くすぶる思いを抱えたまま、俺は彼女の『兄』になった。
彼女はすぐに他の兄弟たちとも馴染んだけど、なぜか、どこか一線引いたような態度をとっていた。
それは俺に対しても同じで――
俺はそれが不満だった。
だから俺は、めいっぱいスキンシップをはかることにした。
明るく話しかけたり、……抱きしめたり。
少しでも、彼女の心に近づけるように。
――だって俺は他にやり方を知らない。
たとえそれで俺が苦しくなっても……
他にどうすればいいか、わからなかったから。
だけど彼女は変わらなかった。
変わらない距離。
変わらない態度。
変わらない……笑顔。
ねぇ……君がそんなんじゃ、俺も変われないよ?
西園寺の名前とか、次期党首の冠とか、兄妹という関係とか。
俺はいろんなものに縛られてがんじがらめで。
それでも君への想いを手放せない。
いっそ、手ひどく嫌って欲しいよ。
冷たく拒絶して欲しい。
……そうしたら俺も、諦めがつくかも知れないのに。
君がおとなしく抱きしめられる度に、俺は甘い幻想に酔いしれる。
そのまま包容を返してくれるんじゃないかって。
想いを受け入れてくれるんじゃないかって。
だけどいつも、君はスルリと腕から抜け出てしまう。
あとには何も残らない。
君のぬくもりすらすぐに消え去って、俺は虚しく空をかき抱く。
――ドウシテ彼女ハ妹ナンダ――
やるせない想いは、日々、澱(おり)のように俺の心に降り積もる。
少しずつ、でも確実に。
ああ…………。
おかしくなりそうだ……。
今日も君は笑顔をくれる。
今日も俺は笑顔を返す。
笑顔の裏で、泣きながら。