駄文倉庫【D-1】

□花は短し、恋せよ男子 …裕次
3ページ/4ページ

 
-驚天の章-





 俺は恋をしている。

 妹への、秘めなきゃいけない恋。










 今日は西園寺の取引先でパーティーがある。

 父さんは海外に出張中なので、今日は俺が父さんの名代。



 そして妹も、初めて外でのパーティーに出席することになっていた。






・・・・・・・・・・



   コン、コン。






「……支度できた?」






 俺はノックをして妹の部屋に入る。



 窓辺に立つ彼女を見て、息をのんだ。










 ネイビーブルーの上品なロングドレスに、シルバーグレーのショールを羽織り、長い髪をアップにしている。

 いつもの清楚な雰囲気とはまた違い、やけに大人びて見えて……色気が垣間見える気がして、すごくドキドキする。






 だけど……
 そう思うのは、他の男も同じ…………。






 そう思うと、このまま彼女を閉じ込めておきたい衝動に駆られる。










 ――――いや。






 俺の体は、意志とは無関係に後手に扉を閉めていた。










「……裕次お兄ちゃん?」



 彼女が不審そうな顔をした。






 俺、何やってるんだろう……。

 パーティーに行かなきゃいけないのに。










「…………ダメだ。君を連れて行きたくない!」



 だけど俺の口も、意志とは無関係に言葉を紡ぐ。










「…………好きなんだ……。
そんな姿……他の男に見せたくない……!」










 言って、自分の台詞にハッとする。

 この想いは口にしちゃいけないのに……!






 口を押さえた俺に、彼女はやんわりと笑って言った。






「……行こ。遅くなっちゃう」






・・・・・・・・・



 俺の告白に何も返すことのなかった彼女。






 ――YESなのか、NOなのか。






 ぐるぐるした思考の迷路に陥りながら、俺はパーティー会場で、半ば反射的に、挨拶してくる人々に応対していた。



 主催者の令嬢とダンスを踊る。

 ダンスの間中、偽りの笑顔を振りまき、社交辞令な会話を交わしながらも。

 俺の心は此処にあらず、一人で待っている筈の彼女のことばかり考えていた。






 ああ……。

 こんな綺麗な女性と踊っていても、心は少しもざわめかない。



 やっぱり俺、彼女じゃないとダメなんだ……。










 一曲終わると、すぐに次を辞退して彼女のところに戻る。

 俺がいない間にちょっかいを出そうとしていた輩を追い払うと、彼女の手を引いてゲストルームへ連れ込んだ。










「もう待てないよ……。
返事を聞かせて、お願い……。
…………友貴ちゃん……」



 俯いた俺の力ない懇願に、彼女はクスッと笑い、そして俺に答えをくれた。










「……ありがと。
私も、裕次お兄ちゃんが大好きだよ?」










 その言葉が信じられなくて。

 顔を上げると、彼女が綺麗な笑顔を浮かべていた。










「……じゃあ……!」


「でもゴメンね? ダメなんだ」






 ――否定の言葉。










「どうして…………」




 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ